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コンテクストからインテリアを考える|大同大学 建築学部 船橋仁奈准教授にインタビュー!

コンテクストからインテリアを考える|大同大学 建築学部 船橋仁奈准教授にインタビュー!
2024年11月26日

インテリアを考える際に「なんとなくいい」と思った家具を置いた結果、部屋の雰囲気がまとまらず悩んでいる方もいるのではないでしょうか。直感だけの勢いで購入してしまい、レイアウトが少し違ったと後悔した経験がある人もいるかもしれません。

今回は「感性と理論」を意識しながら建築設計やインテリアデザインをされている大同大学建築学部建築学科建築専攻の船橋 仁奈(ふなはし にな)准教授にお話を伺いました。

目次

監修者
『RASIK LIFE』編集長
工藤 智也

2023年にRASIKを運営する株式会社もしもへ入社後、『RASIK LIFE』編集長に就任。自身が持つ不眠症の悩みをきっかけに、寝具について学ぶ。睡眠検定3級。商品の企画・生産・品質管理・販売までを一貫しておこなっている会社の特徴を活かし、実際に商品をチェックしながら記事を作成。フォロワー数35万人超えのRASIK公式インスタグラムでは、商品のレイアウトなども公開中。
公式:インスタグラム

デザインは理解や共感を得られることで成立する

生徒たちと課題について話し合う船橋さんの写真

―本日はよろしくお願いいたします。まずは、建築設計を学ぶきっかけについて教えてください。

船橋:きっかけはいくつかあるのですが、私は小さいころから図形領域の課題が得意で、物事を形や空間で捉えることが多かったように思います。建築に携わっていた母に勧められたことも、建築を学ぶきっかけのひとつでした。また、飛騨高山の街並みが好きで、個人的によく訪れて観察していたこともきっかけになっているかもしれません。

大学では建築学科に進みましたが、本当の意味で建築を学んでいた訳ではありませんでした。これに気付くのはずいぶん先の話になるのですが、与えられた課題に素直に取り組むことが勉強だと思っている学生だったのだと思います。自分のアイデアがどのような思考や解釈を生みだすのかを考えず、言葉遊びやおもしろい形態をつくることばかりにこだわっていたんです。結果的に、思考や形態を論理的に言語化する能力が求められる建築設計の授業に窮屈さを感じ、大学院ではデザイン専攻に進みました。しかし、デザインの分野でも最終的に求められるのはデザインの言語化でした。

建築家もデザイナーも「人からお金をいただいてものを作る職業」です。お客様への説明責任があり、共感・理解してもらわなければなりません。「なぜこの空間が快適なのか」「なぜこの色がいいのか」「なぜこの形になったのか」ということを一つ一つ言葉にしなければいけないんです。

理解や共感を得られてはじめてデザインとして成立するのだということを、大学院のデザイン専攻で学びました。そのときに建築もデザインも結局は同じだと気づき、大学院を出た後にロンドンへ留学し、再び建築の世界へ戻ってきました。

設計事務所に就職して感じた「建築のリアル」

課題を前にして建築について話す船橋さんの写真

―設計事務所に就職された際のエピソードを教えてください。

船橋:ロンドン留学の後に株式会社シーラカンスアンドアソシエイツという設計事務所に就職しましたが、そこで「建築のリアル」を初めて知りました。それまでの私は、建築をイメージで捉えていたんです。

実際に建築を作る際、設計士ひとりでは何もできません。お施主様と空間イメージを共有しながら見積もりを出し、工務店に図面をお渡しして建築がつくられていきます。仕事として設計に携わるなかで、私はそれぞれの過程が持つ意味を実感していきました。

また、建築費用を意識できるようになったのも働き出してからです。お施主様が用意した予算をどう使うのか、内訳を図面から詳細に洗い出し、設計事務所では「ボード1枚、釘1本から金額を出せ」と言われていました。予算の洗い出しを通して、仕事としてのお金と建築の結びつきをはじめて理解できたように思います

インテリアデザインでは「コンテクスト」を意識する

船橋さんが手がけたインテリアの写真

―インテリアをデザインする際に意識していることを教えてください。

船橋:少し話が逸れてしまいますが『地球家族 世界30か国のふつうの暮らし』という書籍があります。私はこの本がとても好きで、学生にもよく見せています。家のなかのインテリアや雑貨をすべて外に持ち出してもらい、それらをそこに住む家族とともに写真に収めた写真集で、まさに彼らの持ちものがそこに住まう人の暮らしそのものを顕(あらわ)しているのです。

インテリアはその人自身を表す鏡のような存在でもあると思います。その人の好みが顕れていたり、性格が顕れていたり、ライフスタイルが顕れていたり、いろんな傾向を見てとることができるんです。

私たちはこうした傾向や周囲の環境、条件を「コンテクスト」と呼んでいます。建築やインテリアを考える際はコンテクストを読み解き、都市や建築、環境が持つ文脈に沿ってデザインを提案します。

周辺のさまざまな環境を読みながらデザインをすすめていくと、一つ一つの要素がすこしずつ連動し合い、関係性をもちはじめます。インテリアも、建築や都市との共通言語を探っていくと、内と外の関係が生まれ、内外が連続した総合的なデザインが可能になります。

デザインの本質は「プラスに捉えられる発想に気づくこと」

船橋さんが設計を担当した「パサージュのある事務所の改修」の写真

―設計のなかでネガティブな要素が出てきた際はどのように対処されているのでしょうか?

船橋:設計は、必ずしもいい条件で進められるわけではありません。法律や制度、予算、資材の高騰などはもちろんのこと、建築デザインとは直接的に関係しない要素が問題となることもあります。

たとえば、部屋の隅に柱がある部屋のインテリアを考える際、パッと見たときは柱が邪魔だと考えがちです。そこで「普通の部屋よりも角が多い」とプラスに捉えられないか発想を転換してみたりします。そのような考えから、柱型のある事務所の改修というプロジェクトが生まれました。

一見すればネガティブな要素を、ポジティブに捉えられる発想に転換することがデザインという仕事の本質だと考えています。コンテクストを読み解く解釈の力が大切かもしれません。

解釈の力は誰でも持っていますが、私たちの世界は非常に機能的で便利です。利便性が高いゆえに、普段の生活では解釈を求められる機会自体が少ないように感じます。幸せな世界だと思う一方で、解釈力は少しずつ弱くなっていくのかもしれません。

空間づくりへのこだわりの変化

船橋さんの家にあるインテリアの写真

―インテリアを考える際はどんなところにこだわっていますか?

船橋:私は仕事柄机に向かっている時間が長いので、眠る時間を大切にしています。形や色、香り、素材などそのときどきでこだわってきたポイントが異なるのですが、年を重ねてからは、素材を気にすることが多くなりました。

学生のころはさまざまなインテリア雑貨を買って、かっこいい空間作りを意識していました。当時を思い出すと、形態を作ることが建築だと考えていた点とも合致する気がします。

一方で、最近は本当に必要なものを買う生活に変化しています。肌触りや香り、使いやすさにこだわって買い物をすることが増えました。とくに、肌に直接触れる時間が長い寝具は綿100%の商品を選んだりしています。形態的なものに対する興味がマテリアル的なものへの興味に変化しているとも言えますね

RASIKは機能性とデザイン性のバランスがいい

RASIKのワークデスクの写真

―RASIKの公式ストアを見てどのような印象を抱きましたか?

船橋:実は、今回のお話をいただくまでは存じ上げませんでした。初めてブランドを拝見し、ニュアンスカラーが特徴的で、落ち着きのあるおしゃれなサイトだなと感じました。

家具については、機能性とデザイン性の間を非常にバランスよく攻めているなという印象です

私自身、ここ最近は機能性とデザイン性のバランスをより意識して家具を選ぶようになっており、商品ジャンルとしては、とくに机が気になりました。事務所に置いてもいいなと考えながらいろいろと想像を膨らませる機会となりました。

自分の感性を伝えるために理論を磨く

学生たちと話す船橋さんの写真

―最後に、学生に向けてメッセージがあればお願いします。

船橋:私は「感性と理論」のバランスを大切にしています。建築設計やインテリアデザインのプロセスでは、インプットの機会を大切にし、多くの情報を選択・収集しながら、カタチを創造します。情報のインプットや選択・収集という作業は、どれも感性に大きく左右されます。一方で、入手した情報を整理し創造する、アウトプットの作業では理論が必要です。

私が学生のころ足りなかった点はまさにこの部分でした。感性によって育まれたものを体系的に言語化することで、はじめて他者と共有できる新たな価値観が生まれます。現在は「感性」と「理論」を使いこなしていくことこそが本質的なデザイン行為だと考えて、教育活動をおこなっています。

学生は褒めてもらいたいという気持ちが先行しがちな傾向にあります。自分がかっこいいな、好きだなと思ったものを感覚的に創造しますが、その感覚を言語化できずに悪い批評を受けてしまうと「自分は才能がない」「向いていない」という極端な結論に飛躍してしまいます。批評を受けた際は「自分の感性を理論的に言語化して表現できれば、評価が変わるかもしれない」と考えてほしいですね。

感性と理論を磨くなら、建築に関する書籍を読んだり、建築家や芸術家の話を聞いたりするのが一番ですが、自分が主体的に興味を持てることからはじめてもいいと思います。映画や漫画、音楽でもいいのではないでしょうか。何かに興味を持つと、その面白さを説明したい、理解してもらいたいという欲求が生まれます。そうした欲求が最終的にスキルの向上につながればいいと思っています。

また、さまざまな場所に足を運んで、実際に自分の目で見て、体験することが興味を持つ一番の近道です。自分の知る世界だけにこもらず、さまざまなモノや人、コトに触れて感性を育んでほしい、そしてたくさんの言説に触れて言語化する能力を養ってほしいと思います。

―素敵なメッセージをありがとうございます。本日はお時間をいただき、ありがとうございました。

大同大学 建築学部 建築学科 建築専攻准教授 船橋 仁奈】
一級建築士。愛知県立芸術大学大学院美術研究科デザイン専攻修了。株式会社シーラカンスアンドアソシエイツを経て、2012年にNI&Co. Architects 一級建築士事務所を共同設立。
「パサージュのある事務所の改修」は、2019年グッドデザイン賞、2019年度日本空間デザイン賞銀賞を受賞。
2017年に大同大学工学部建築学科の准教授に着任。建築・インテリア設計および地域社会との関わり方を研究。