インテリアはドラマのシークエンスを意図して作る|駒沢女子大学 神村 真由美特任教授にインタビュー!
インテリアは、部屋の過ごしやすさに影響する要素のひとつです。漠然とインテリアを選んでしまい、居心地の悪さや乱雑さを感じて悩んでしまった方もいるのではないでしょうか。
今回は、一級建築士やインテリアコーディネーターとして活躍しながら大学でインテリアデザインを教えられている、駒沢女子大学空間デザイン学部[2025年4月仮称・設置構想中]の神村 真由美(かみむら まゆみ)特任教授に、インテリアの考え方についてお話を伺いました。
2023年にRASIKを運営する株式会社もしもへ入社後、『RASIK LIFE』編集長に就任。自身が持つ不眠症の悩みをきっかけに、寝具について学ぶ。睡眠検定3級。商品の企画・生産・品質管理・販売までを一貫しておこなっている会社の特徴を活かし、実際に商品をチェックしながら記事を作成。フォロワー数24万人超えのRASIK公式インスタグラムでは、商品のレイアウトなども公開中。
公式:インスタグラム
自分のデザイン適性から大学の専攻を選ぶ
―本日はよろしくお願いいたします。まずは、インテリアデザインを学ぶようになったきっかけを教えてください。
神村 真由美さん(以下、神村):私が学生だった頃、多くの私立の美術大学では入学段階で専門分野が決まっているのが一般的でしたが、私が学部時代に通っていた公立の京都市立芸術大学では、入学段階ではデザイン科の中で細かな専攻が全く決まっていないカリキュラムでした。
入学するまで優れたデザインに触れる機会が少なく、インテリアデザインの概念すら無かった私は、専攻が分かれる3年生までさまざまな課題をこなす中で「自分がどんな分野に向いているのか」時間をかけて悩み、自分のデザイン適性について深く考えることができました。
そのなかで、グラフィックなどのビジュアル系より、空間系デザインが向いていると気づき、3年生では環境デザイン専攻(現在は総合デザイン専攻)を選びました。
アルバイトで実際のインテリアデザインワークの訓練を積んだ
―授業以外で、インテリアについて学べる環境やきっかけはあったのでしょうか?
神村:インテリアや建築を学ぶなかで、ある先輩から「私の代わりに働いてほしい」と紹介されたのが、神戸にある建築・インテリア設計事務所でした。
その事務所の所長は空間デザインに長けた造形作家のイサム・ノグチさんの弟子を自認する方で、建築物に関するものは空間からインテリア、備品に至るまでなんでもオリジナルでデザインする方でした。そして所長から与えられた最初の仕事が、とあるホテルの壁紙柄作りだったんです。
大規模なホテルは数百単位の客室があり、ベッドは数百台、壁紙なら何万平米規模で注文します。それだけの規模になると、柄だけでなく、素材感や表面の凹凸の表現までオリジナル制作が可能になり、壁紙を含む仕上げ材料や家具、照明器具や備品を事務所では1からデザインしていました。ただ、最初の壁紙に関しては、私のデザインが実現しなかったので仕事の結果に関してはよくわからず終わってしまいました(笑)。
何回かバイトをこなしていくうちに、ある日、沖縄のリゾートホテルにある宴会場のカーペットのデザインを依頼されました。そのころはまだテキスタイル柄のリピート考慮に自信がなかったのですが、所長から「なんとなく、リピートになるかな?くらいに考えておいてくれればカーペット会社の人たちがサポートしてくれるから」と言われ、デザインを3案ぐらい作り提出したんです。
それから2週間ほど経って、カーペット会社の方々が持ってきてくれたテーブルいっぱいの大きな試作品を見てとてもびっくりしました。紙の上で描いていたデザインが、最高級の分厚いカーペットに織られている。さらに、細かな部分まで綺麗に仕上げられていて衝撃的でした。美大で学んでいる技術を生かせば、こんなものができるんだと感動する体験ができたんです。
それ以降も、「君たちが考えたものが現場でどう活きるのか見せてあげる」と、所長に現場へ連れていってもらったりしていました。「あなたの考えたデザインはこう仕上がるよ」という経験の積み重ねですね。アルバイトを通して、家具や仕上げ材料などを組み合わせた集合体のなかに、自分のアイデアや考えが入るとどう見えるかを常々訓練させていただきました。
授業では「勉強が何につながるか」を伝えたい
―教授として働くきっかけを教えてください。
神村:じつは、独立して事務所を設立して間もない時期から、複数の専門学校で講師の仕事もしていました。設計の仕事と平行して一級建築士の資格を取る勉強もしていたのですが、資格の勉強仲間から今の大学でインテリア系の教員を探していると紹介され、詳しいお話を大学に伺いに行ったのがきっかけです。
―授業を通してどんなことを伝えたいと考えていますか?
神村:駒沢女子大学空間デザイン学部は、家政学の住居分野をもとに誕生した経緯があり、文系や理系を問わず、さまざまな志向を持つ学生が集まります。
本格的なデザインの勉強を始めたばかりの学生たちは、自分の将来をなかなか想像しにくいものです。そのため授業ではデザインの基礎と合わせて、勉強が将来の何につながっているのか、建築やインテリアの世界がどんなに素晴らしいかを伝えたいと思っています。
ドラマの結末に至るまでの物語の進行を想像して設計する
―建築やインテリアを考える際に意識していることはありますか?
神村:人は見えている風景や聞こえるもの、触るものなど五感からの情報で構成されるドラマのなかを生きていると私は考えています。そして、建築やインテリアは「その空間で過ごせて幸せだ」というドラマの結末の充足感を意図して作る仕事だと思っています。
学生がいきなり結末をふまえて部屋のデザインやインテリアを考えるのは難しいので、授業では図面をただ描くだけでなく、図面の中を歩く訓練をさせています。壁の質感や照明効果まで考えて、空間が人に与えるイメージを想像し、人が空間の中を移動することで生まれるシークエンスを計算しながら設計することの大事さを伝えています。
テレビドラマや映画でも、物語にはある程度パターンがあることが多いですね。でも、結末だけで見ると平凡なドラマも、その途中の展開が面白いと記憶に残って誰かにおしゃべりしたくなりますよね。視聴者は印象的な登場人物のセリフやカットが入ったシークエンスでドラマのことを覚えているんです。
空間デザインでは「感動させたい」「また行きたい」と思わせることはもちろんなのですが、その結末に至るまでのシーンの連続の中でどんな感動を呼び起こすかが重要だと考えています。
自宅のインテリアは手触りや存在感、コーディネートの面白みを重視
―自宅のインテリアで思い入れのあるアイテムはありますか?
神村:旅先で見つけたものでしょうか。たとえば、ヒョウがハンモックで昼寝をしているデザインのホテルのドアサインをアクリル板で挟んでアートワークにしています。30年以上前に、スリランカのインド洋に面した歴史あるコロニアル洋式のホテルに泊まったときの思い出の品です。
ドアノブにかけるプレートに文字が書いてあるのですが、一般的なホテルでは「DO NOT DISTURB(起こさないでください)」と書かれているところに「SSSHHH….(シー)」(静かにしましょうの意味)と書いてあります。アジア最古の格式のある5つ星のヘリテージホテルらしからぬ、ウィットに富んだ楽しいアイデアに、つい笑ったことを思い出します。
―インテリア選びでは、存在感のあるものを選ばれているのでしょうか?
神村:ハンドメイドの手触りが楽しいモノやアンティークタッチの品など、ある程度存在感があるアイテムが好きかもしれません。
部屋で使用しているシルバーの照明も、インダストリアルアンティークの商品です。無骨になりすぎない、そこはかとないエレガントなデザインと使い込まれたエイジングの存在感が気に入っています。
一方で、私自身がさまざまな方の要望に応えるデザイナーとして、ひとつのテイストだけに染まらないようにも意識しています。部屋の中にはフランスの蚤の市にあるような雑貨や、北欧や和のテイストの家具もミックスでコーディネートすることによって、〇〇風と簡単にスタイル名をつけられない、オリジナルに見えるようにしています。
RASIKの家具は暮らしのイメージを伝えるのが上手
―RASIKの家具にはどのような印象を受けましたか?
神村:さまざまなタイプの家具がありますよね。カラーリングも主張しすぎず使いやすそうで、今の若い世代が好みそうなシンプルな印象です。その中でも様々な工夫があって、少し趣味が良さそうに見えるのも良いなと思います。
商品の写真にもこだわられていますよね。初めて家具を買う方でも使い方を想像しやすくて、暮らしのイメージを伝えるのが上手だなと思いました。
―神村さんがRASIKの商品をおすすめするとしたら、どんな方に紹介されますか?
神村:使い心地やデザインにもこだわりたい方向けでしょうか。何年か経過したひとり暮らし上級者の方や、新婚カップルなどにおすすめできるかなと思いました。
人との関わりから自分の可能性を広げてほしい
―最後に、学生へのメッセージがあればお願いします。
神村:授業では設計やデザインに関する作業を勉強しますが、純粋な設計者やインテリアデザイナーとしての職種はある程度人数が限られています。学生のなかには「自分は設計が下手なのでインテリア業界で働けない」と思い込んでいる人もいるかもしれません。
そんなときは、業界は設計士やデザイナーだけで成り立っているわけではないと考えてみてほしいです。
デザインは情報を整頓し、条件の中で要望や夢を乗せて、最終的にはハードの面を作り出す仕事だと思うのですが、そのハードと人を結びつけるのは、ほとんどソフトな仕事です。宣伝したり、マーケティングや売り上げを考えたりするのもデザインにつながる仕事ですよね。それらを含めての業界なので、その中には人の持つ資質の活かし方が様々にあります。
設計ができるのに営業部署に配属されたと嘆く方もいましたが、結果的には会社が資質を見て、誠実で信頼を得やすいその方に、その社内ではとても少ない企業向けの提案型営業に抜擢した例を見たことがあり、しばらくすると面白い仕事内容に本人もやりがいを感じており、とても上手いキャスティングだと思いました。このように自身では思いもよらぬ資質が評価されるかもしれません。さまざまなところにアプローチして、できるだけ大勢の人と喋って自分の可能性を広げてほしいです。
―素敵なメッセージをありがとうございます。本日はお時間をいただき、ありがとうございました。
【駒沢女子大学 住空間デザイン学類特任教授 神村真由美】
一級建築士・インテリアコーディネーター。京都府出身。東京芸術大学大学院環境デザイン専攻修了。1989年に鹿島(株)設計本部インテリアデザイン部在籍。1996年にALICETONE DESIGNを設立、ホテルやショップなど商業施設インテリアを中心に幅広いデザイン業務をおこなう。2013年に駒沢女子大学空間デザイン学部[2025年4月仮称・設置構想中]特任教授に就任、「インテリアデザインⅡ」「インテリアデザイン計画B」「プレゼンテーション技法」などを担当。