コンテンツへスキップ

カート

カートに何も入っていません

「テーマ」で異なるデザインをまとめあげる|八戸工業大学 建築・土木工学コース福士 譲准教授にインタビュー!

「テーマ」で異なるデザインをまとめあげる|八戸工業大学 建築・土木工学コース福士 譲准教授にインタビュー!
2024年10月11日

さまざまなデザインの家具を組み合わせる際、色味のバランスや配置に悩んでいる人もいるのではないでしょうか。

今回は、日本最古の南部曲屋風木造厩舎にさまざまなデザインの内装を取り入れた「曲屋KANEKO」を設計した、八戸工業大学工学部工学科建築・土木工学コースの福士 譲(ふくし ゆずる)准教授にお話を伺いました。

※南部曲屋:母屋と直角になる形で厩(うまや)と呼ばれる馬小屋がついている、L字形の民家。 江戸時代から良馬を多く産出した岩手県南部地方に多い建築形式。曲屋KANEKOはそのような構造形式をもった元育成厩舎。

目次

監修者
『RASIK LIFE』編集長
工藤 智也

2023年にRASIKを運営する株式会社もしもへ入社後、『RASIK LIFE』編集長に就任。自身が持つ不眠症の悩みをきっかけに、寝具について学ぶ。睡眠検定3級。商品の企画・生産・品質管理・販売までを一貫しておこなっている会社の特徴を活かし、実際に商品をチェックしながら記事を作成。フォロワー数24万人超えのRASIK公式インスタグラムでは、商品のレイアウトなども公開中。
公式:インスタグラム

授業を通して建築デザインという仕事を広めたい

福士さんが設計した「曲屋KANEKO」の外観写真

―本日はよろしくお願いいたします。まずは、住宅設計に興味を持たれたきっかけと准教授として働くことになったきっかけを教えてください。

福士 譲(以下、福士):私の両親は住宅設計を手がけており、小さな頃から図面や建築現場が身近にある生活を過ごしていました。その影響で、実はそれほど深く考えずになんとなくの流れで大学の建築学科に進学したんです。

本格的に設計への興味が湧いたのは、大学でフランク・ロイド・ライトさんの「落水荘」という建築を見てからですね。滝の上に突き出るように建つデザインを見て、住宅にはさまざまな可能性があると感じました。

大学卒業後は、山本理顕さんの設計事務所へ就職し、何年か働いたのち妻と一緒に地元へ戻ってきました。両親の仕事の手伝いをするなかで、住宅だけでなくビルや公共施設の設計も手がけたいと考えるようになり、妻と設計事務所を立ち上げました。

その後、縁があって賞をいただく機会があり、受賞をきっかけに八戸工業大学から「講師として働かないか」と声をかけていただいたんです。講師の仕事を受けたのは、学生に設計を教えることの楽しさや充実感に魅力を感じたのがひとつの理由かもしれません。

もうひとつは設計業界全体の成長でしょうか? よく「建築リテラシーを上げる」などとも言われますが、設計者はもちろん、作り手、使い手、発注者等、社会全体で盛り上がっていければと思います。

昔から、仕事を通して「建築デザインという仕事」に対する認知度の低さを痛感しており、なんとかしたいという思いがありました。ひとりでなにかを変えられるわけではありませんが、建築学科でデザインを学んだ学生が世に出ていくことで、少しずつ設計業界が変わっていくのではないかと考えました

人間関係を広げて、少しでも建築デザインの認知度を上げたいと考えながら教壇に立っています。

「どんな家具を置いても整う空間」をデザインしたい

空間デザインについて話す福士さん

―住宅を設計する際からインテリアは意識されていますか?

福士:私は設計時「クライアントの好きなインテリアを選んでほしい」と考えているので、私自身には「こうしたい」という意識はあまりないかもしれません。

最近はクライアントもインテリアや家具の知識を持っているケースが多く、クライアントからの提案に合わせて設計する場合もあります。たとえばクライアントが赤いソファを置きたい場合は、白いタイルの壁や真っ白な天井を使い、赤のビビッドなソファが似合うようデザインしますね。

クライアントに好きなものを選んでほしいと考えるのは、私のなかに「インテリアを建築に寄せる」または「個性的なプロダクトや家具を建築が受け止める」というふたつの設計方法があるからかもしれません。

インテリアを建築に寄せる場合、壁面に色を合わせたり素材を近づけたりして、インテリアなのか建築なのかわからないぐらいに設計します。

一方でプロダクトや家具を建築が受け止める場合は、カーテンやカーペットを意識して建築物を設計します。赤色や青色、緑色などどのような色がきても動じない空間を用意しておき、どんな家具でも空間が整うようデザインしたいんです

色味やトーン、明るさは調整しますが「そんな家具を買ったの?」というケースが発生しても大丈夫なように意識したいと考えています。もちろん、何でも置けばいいというわけでは無いので(笑)、部屋の広さや光の入り方、座る向きをふまえたセッティングのアドバイスはしています。

インテリアのストーリーを考えるきっかけとなった「曲屋KANEKO」

「曲屋KANEKO」の南部小絵馬が飾られた部屋の写真

―牧場の曲屋をリノベーションした「曲屋KANEKO」も、施主さんのこだわりを取り入れながらインテリアを考えられたのでしょうか。

福士:「曲屋KANEKO」では、家具デザインの組み合わせだけでなく地域文化や伝統工芸など、私たちが普段取り組んでいるモダ二ズムの延長上のタイプとは異なる要素をまとめていく必要がありました。

建物に関わる人たちの希望を聞き、選んだ意見を吟味するなかで「異なる趣味やデザインが共存してもある程度バランスを意識すると成り立つ」と感じたんです。街にさまざまな人がいるように、さまざまなテイストのバランスをとっていくべきだと考えました。「曲屋KANEKO」の設計経験こそが「どんな家具が来ても整う空間」を考えるようになったきっかけかもしれません。

曲屋がある七戸市は、古くから馬に関する文化を継承してきた町です。曲屋にも民芸品である「南部小絵馬」が飾られていますが、実は今回のリノベーションにあたり、画家に描き下ろしていただいています。さらに、描いてもらった小絵馬の取り付けには建具屋さんや大工さんが関わりました。

曲屋に関わる人々の意見を聞きながら、価値観をうまくまとめる方法を模索した結果、ある意味さまざまな価値観に流されていくようなまとめ方に落ち着いたんです。

「曲屋KANEKO」の馬をモチーフにした小物の写真

「曲屋KANEKO」には、異なる価値観をまとめた結果が各所のインテリアに反映されています。そのひとつが部屋の入口に飾られた番号札です。

小絵馬と馬の蹄鉄をモチーフにしていますが、蹄鉄(ていてつ)は当初コンクリートに足跡の模様をつけるために活用しようと考えていました。そこで蹄鉄を付ける職人さんに話を聞きに行ったのですが、模様をつけるために必要だろうと馬の歩き方を教えていただいたんです。そこで、蹄鉄をほかの場所にも活用したいと考え、あの番号札が生まれました。

一見、設計とは関係のない人々と関わるなかでも「建築のテーマ」が決まってくると、ストーリーが続いていくんです。「曲屋KANEKO」では、町の伝統文化でもある馬文化がストーリーとなりました。

スツールの座面にも「南部菱刺し」という伝統工芸を使っていますが「うまのまなぐ」という馬に関係する模様を使った結果、まとまったデザインになりましたね。ストーリーに沿って価値観を共有すると、異なる家具やデザインをまとめ上げられるのかもしれません。

建物の空間を意識したインテリア選び

福士さんの自宅の写真

―インテリアを選ぶ際のこだわりを教えてください。

福士家具のデザインは建物の空間を意識して選びます。たとえば天井や床が無垢の板材で作られた建物なら、木を感じさせるデザインの家具よりもガラスなど軽く透明感のあるものを選んだり、白い壁など軽い印象の住宅なら、逆にどっしりとした大きさの木製家具を置くこともあります。

私自身、建物と家具との差をつけて選ぶ傾向があるのかもしれません。インテリアを建築に寄せる場合はできるだけ建築に近づけますが、プロダクトや家具を建築が受け止める場合は存在感の強い家具を選んでいます。家具のほうが住生活におけるリアリティが強いと考えているので、食器のような小物が目立つインテリアのほうがいいかなと考えていますね。

一方で自宅のインテリアは、インテリアを建築に寄せる考え方で選びました。自宅に細い鉄骨で作った軽い感じの階段があり、階段に寄せるようなデザインの家具を使っています。椅子は細身の脚が特徴的なデザイナーズチェアを置き、テーブルは細く削ったスチールを使ったメラミンのテーブルを合わせています。

RASIKの家具を見てバリエーションの豊富さに驚いた

RASIKのベッドの写真

―RASIKの家具を見た印象はいかがでしたか?

福士:第一印象としてはシンプルで綺麗な家具が多い、そしてリーズナブルだなと感じました。

バリエーションが豊富だなという印象も強いです。ソファだけに注目してみても、タイプやサイズ、素材の違う商品が数百品ありますよね。すごいことだと思います。これだけの商品数があれば、お客さんとしてもコーディネートしがいがあると思いました

実物を見てスケールを感じ取ってほしい

インタビューを受ける福士さんの写真

―最後に、授業で大切にされていることや学生へのメッセージがあればお願いします。

福士:私は、学生たちに具体的なものを見せたり話したりしたいと考えて大学に来ました。なかでも寸法的なもの、スケール感を重要視したいと考えています。

最近の建築業界では、CGやパースの技術発展が著しいです。ですが、私は具体的なスケール感こそが設計の大切な部分だと考え、学生にも感じ取ってほしいと考えています

スケール感は一般的にセンス、感覚的な側面だと思われがちですが、体験から身につけることも可能です。学生たちには寸法を身につけ「このぐらいの大きさ、この広さだと気持ちいい」「これだと明るく見える」など自分で感じることを大切にしましょうといつも話しています。

そのためにも、実物を見に行ってほしいですね。実物を知ることは将来設計業界に勤めたい人にとって大事なことだと思います。

私は実物を感じる機会として、プロポーザルのコンペはできるだけ学生たちと一緒にやるようにしています。設計事務所の仕事の流れを横で見ていると、寸法やスケール感を学べるだけでなく、お客さんが喜ぶ様子を間近に見られることもあります。そういったシーンも、いい良い経験のひとつになってほしいですね。

―素敵なメッセージをありがとうございます。本日はお時間をいただき、ありがとうございました。

八戸工業大学 工学部工学科建築・土木工学コース 准教授 福士 譲】
一級建築士。1971年岩手県生まれ。1996年に東北大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程を修了。山本理顕設計工場などを経て、2005年にフクシアンドフクシ建築事務所(現フクシアンドフクシアーキテクツ株式会社)を設立。
設計を手がけた「曲屋KANEKO」は2021年にグッドデザイン賞、日本空間デザイン賞オフィス空間部門銀賞、サスティナブル空間賞、iF Design Awards 2022(独)を受賞。
2023年より八戸工業大学准教授に就任。主な研究分野は社会基盤(土木・建築・防災)、建築計画、都市計画、建築設計。