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家族の暮らし方はどう変化している?昭和女子大学 環境デザイン学科 番場美恵子准教授にインタビュー!

家族の暮らし方はどう変化している?昭和女子大学 環境デザイン学科 番場美恵子准教授にインタビュー!
2024年9月18日

人々の暮らし方は、時代によって変化しています。部屋の使い方や家具の変化を把握しておくと、快適な暮らしを考える際のヒントになるかもしれません。

今回は「快適な暮らし」を家族関係や地域コミュニティなどの視点から研究されている、昭和女子大学環境デザイン学部環境デザイン学科の番場 美恵子(ばんば みえこ)准教授にお話を伺いました。

目次

監修者
『RASIK LIFE』編集長
工藤 智也

2023年にRASIKを運営する株式会社もしもへ入社後、『RASIK LIFE』編集長に就任。自身が持つ不眠症の悩みをきっかけに、寝具について学ぶ。睡眠検定3級。商品の企画・生産・品質管理・販売までを一貫しておこなっている会社の特徴を活かし、実際に商品をチェックしながら記事を作成。フォロワー数24万人超えのRASIK公式インスタグラムでは、商品のレイアウトなども公開中。
公式:インスタグラム

輸入住宅がきっかけで「公私室」の使い方に興味を持った

番場准教授の研究室の写真

―本日はよろしくお願いいたします。まずは、住環境研究に興味を持ったきっかけを教えてください。

番場 美恵子(以下、番場):私は高校生の頃から住宅やインテリアに興味があり、昭和女子大学生活美学科の住居コースに入学しました。当時、近代以降の住まいの歴史や使い方を学べる住生活学という授業があり、とても興味深かったんです。そこで、住生活学を教えている先生のゼミに入ることにしました。そのゼミで、輸入住宅の住まい方研究に取り組んだのが住環境に深く興味を持ったきっかけです。

私が大学生当時の日本は、円高で輸入黒字が続いていました。とくにアメリカとの貿易が盛んで、欧米の住宅を資材ごと輸入して日本に建てる動きが流行っていたんです。私は卒業論文を作るために、当時関西にあった、資材はもちろん間取りや街並みまで輸入した輸入住宅村へ調査に行きました。

日本は戦後以降「公私室型」という住まい方が普及しました。これは、リビングダイニングをはじめとする公室と、寝室のようにプライベートな時間を過ごすための私室に空間領域を分ける間取りですが、もとは欧米からきています。

調査した輸入住宅は、リビングダイニングキッチン以外にファミリールームやレセプションルームなどが設けられていて、公室が多いという特徴を持っていました。たとえば食事場所も、日本だとダイニングキッチンやダイニングルームが使われますが、輸入住宅や欧米の住まいには、来客用にもうひとつダイニングルームがあるんです。

用途によって部屋を使い分ける欧米スタイルの住居を、日本人がどんな風に使うのか調査してみると、欧米とは違う使い方をしていることがわかりました。

大きな違いのひとつが、テーブルや椅子、ソファなどの使い方です。欧米では各ダイニングにテーブルや椅子を設置しますが、輸入住宅では1セットだけ使う傾向が見られました。もう片方のダイニングルームには何も置かず、床に直接座れるようなスペースにしたり、絵画を飾ってギャラリーのような空間の使い方をしたりと、欧米の住まいに日本人の住文化がミックスされている様子に面白さを感じたのを覚えています。

窓を活かしたインテリアづくり

RASIKのドレープカーテンとロールスクリーンの写真

―輸入住宅の調査を通して興味深かったインテリアはありますか?

番場:欧米の家具や部屋はサイズが大きいので、欧米の部屋に日本の家具を入れると、同じ家のつくりでも雰囲気が変わるのが興味深かったです。

カーテンに関する工夫も印象に残っています。輸入住宅は窓の位置がシンメトリーで、窓の造りも上げ下げ窓になっていたり、白い桟が付いていたりと、窓だけでもおしゃれな雰囲気です。インテリア的に絵になるというか、印象に残る造りになっていると思いました。

輸入住宅は窓の作りが日本と異なるため、ドレープカーテンやローマンシェード、ロールスクリーンなどのオーダーカーテンをしつらえている家庭もありました。カーテンを全部オーダーして「何百万円もかかかりました」なんて話す居住者の方もいましたね。

壁面や窓のインテリアは目立ちやすい要素のひとつです。窓を飾るカーテンに工夫を凝らすと、部屋全体が素敵になる印象を持ちました

親子の関係性と暮らし方の変化

インタビューを受ける番場准教授の写真

―家族の住環境にはどのような変化が起きていますか?

番場:以前と比べて、大学生になる子どもと親の関係性が近くなっているように感じます

具体的には、自分の部屋を持つ大学生が、夜に親と一緒に寝ているケースが結構あるんです。学生を対象に実施した調査の結果を見ると、もちろん、自分の部屋を持っていてそこでひとりで寝ている場合が大半なのですが、誰かと寝ている場合、兄弟と一緒に寝ているケースよりも親と寝ているケースのほうが多かったですね。

また、自分の部屋がないことが理由で母親と一緒に過ごす大学生も増えています。日本では未就学児や小学校低学年くらいの時期は親と寝るのが一般的だと思いますが、その習慣が大学生になっても続いているんです。暮らし方が変わってきているなと感じましたね。

ただ、私はこうした変化はネガティブな要素も抱えていると考えています。

子どもはいずれ自立して家を出ていきますよね。そのために、親は子ども時代に個室を与えて、子どもにある程度の自立を促します。ですが、最近はその意識が薄いのか、同じ部屋で就寝する家庭が増えてきているわけです。高校生や大学生までそれが続いて、気づいたら30歳、なんてことになるとちょっと問題ですよね。これは子どもよりも親の意識の問題だと思います。

家の居心地がいい、新しい生活をはじめたくないといった思いが強まると、晩婚化や未婚化の進行に拍車がかかる可能性も高いですよね。

親子仲がいいことは大切ですが、親は子どもに対してある程度の自立を促す必要もあるのではないでしょうか。

公室と私室の混在化が進んでいる

公室と私室の混在について話す番場准教授

―親子での暮らし方以外でも、暮らし方に変化は起きているのでしょうか?

番場:親子の暮らし方だけでなく、夫婦の暮らし方も変わってきていますね。

「家族人数-1」の部屋数に、公室であるLDKを加えた間取りの家で暮らす「(n-1)LDK」と呼ばれる考え方があります。夫婦はひとつ部屋を共有するので、家族人数からひとつ少ない部屋数で暮らす考え方ですね。

ところが最近はこの使い方に変化が見られます。とくに、子どもが大学生になる年齢くらいで、結婚して20年を過ぎた夫婦が別々の部屋で寝ているケースが増えています。

家族の人数分だけ部屋数がない家庭でも夫婦別々で寝ている家庭が多いんです。そうすると、夫婦ではなく、親子が一緒に寝ているケースが増えてきています。

また、夫婦のどちらかがリビングで寝ているケースも見られますね。公私室型の家では、食事やテレビ鑑賞のような誰かと一緒にする行為は公室で、個人でする行為は私室でおこなうのが一般的ですが、公私室の境目が曖昧になり「混在」してきています。日本では以前からこのような住まい方がみられますが、近年それが加速しているように思います。

リビングで勉強する子どもは前からみられましたが、ついにリビングで寝る家庭も出てきたのかと驚きましたね。想定されている住まい方と実際の使い方の乖離が進んでいるので、使い方に沿ったプランを考えていきたいですね。

公室と私室が混在するメリットとは?

公私室が混在するメリットについて話す番場准教授

―公室と私室が混在すると、暮らし方にどのような影響が出るのでしょうか?

番場:ひと昔前までは、子どもはある程度の年齢になると自分の部屋にこもってしまうのが一般的でしたが、最近はリビングやダイニングで過ごす子どもが増えています。家族が公室で過ごす時間が長くなっているんですね。これは視点を変えて考えると、混在がもたらす「いい影響」にもなるかもしれません。

コロナ禍での住まい方調査でオンライン授業を受ける場所について質問したときも、いくつかの部屋を併用している人が多かったです。カメラを使うときは背景を意識して自分の部屋を選び、カメラを使わないときは眠くならないよう家族がいるダイニングで授業を受けている人もいました。

公私室型という考え方は変わらなくても、その使い方は変わっています。リビングやダイニングといった公室を広く確保し、個室が小さくなっていく流れが進むかもしれませんね。

あとは、親子の距離が近くなっていることを示す現象もみられました。たとえば就職活動もオンライン化が進んでいますが、重要な面接の時は父親の部屋で受ける、なんていう人もいました。

子どもは親の部屋でも躊躇なく入れるようになっていますし、父親も逆に子どもの部屋をうまく活用するようになっています。普段はリビングで仕事をしているけれど、子どもが学校に通っている間は子どもの部屋の机を借りて仕事をしている父親もみられました。「自分の部屋」の境界が緩くなったのかなとは感じますね。

親子仲がいいというか、厳格さがなくなったことはいい影響かもしれませんが、これも行き過ぎてしまうと子どもの自立タイミングが曖昧になってしまうかもしれませんね。

一緒にいながら個々の快適さを求める時代

RASIKの連結ベッドの写真

―家族仲が深まる一方で、別々に寝る夫婦が増えているのは何故なのでしょうか?

番場:夫婦が別々に寝るようになったのは、仲が悪くなったからではないんです。いびきがうるさいとか、快適に思う空調温度が違うとか、起床や就寝時間がズレているとか、寝る場所を分ければお互いがより快適に過ごせるという判断で選択している家が多いようですね。家族と一緒にいることが苦ではない一方で、個人の快適さを求める意識が強まった結果だと思います。

―RASIKでは連結ベッドもありますが、まさに個人の快適さを求める人たちが着目しているのかもしれません。

番場:ベッドのように長い期間使う家具は、家族のライフステージによって使い方も変わってくるので、フレキシブルに対応できる家具はいいですよね。

私の家には結婚時に買ったキングサイズの単体ベッドがあるのですが、子どもができて状況が変わった結果、いろいろと不便に感じました。大きすぎて引っ越すときも大変でした。同じキングサイズでも連結や分割ができるベッドなら、引っ越しや模様替えの際に融通が効いていいですね。

「ちょっとしたストレスを減らす」意識が大切

自宅での暮らしについて話す番場准教授

―「快適に暮らす」研究はご自身の生活にも活かされているのでしょうか?

番場:快適に暮らすという視点で言えば、どんなに小さなことでもストレスをなくすよう意識して暮らしています。

たとえばドアがちょっとだけ開きづらいような際に感じる、「使えるけれど不便」なことですね。普段は習慣化していて気づきにくい小さいストレスです。解消されると快適になる小さなストレスが、生活のなかにいくつかあるんじゃないかなと考えています。

ストレスを減らすために家具を買い替えることもあります。生活に支障はないくらいの不便さでしたが、以前使っていたソファが座るとよく位置がズレて、新しいものに変えたら生活がとても快適になりましたね。

使い勝手を確認しやすいのがRASIKの魅力

RASIKのコンテンツ例画像

―RASIKのことはご存じでしたか?

番場:最初に名前を見たときは、聞いたことがあるなという印象でしたが、インタビューの前に調べてみたら、以前利用したことがあり、実は会員にもなっていました(笑)。家具を買うときは最初にインターネットで調べているので、ブランドまでは覚えていないだけで、そのときに使っていたのでしょうね。

商品の印象はとてもシンプルで、いい意味で万人受けする感じの作りになっているなと思います。商品情報も整理されていて、家具を探すときに便利だなと感じました。

商品写真に人が写っていたり、使い方の説明が書いてあったりするのもいいなと思います。家具選びは、つい最初は見た目から入りがちですが、実際の使い心地が大切ですからね。

私が研究している住生活学や住居学の分野は、建物や空間といった「ハード」の部分と、建物を人がどう使うかという「ソフト」の部分の対応関係を見る学問です。

どんなに素敵なデザインのハードでも、使い勝手が悪いと快適には暮らせません。ソフトの部分から空間や家具を見ていくことはとても大切です。RASIKのように商品の使い方の説明が用意されていると、消費者としてはいいなと思いますね。

ソフトな面からも建築を考えてほしい

メッセージを話す番場准教授

―最後に、学生に向けてメッセージがあればお願いします。

番場:建築では意匠的なものやデザインが注目されがちですが、人が使って初めて評価ができるものです。

女子大系の建築学科は家政学からスタートしたところが多く、ソフトの部分から建築を見るところが特徴でもあります。今は女子大の建築学科も工学部の建築学科に近くなり、ハードの部分がメインになってきていますが、デザインだけではなく、ソフトな部分も重要であることを伝えていきたいと考えています。私は、実際に人がどう建物を使うのかを見ていくことが建築において重要だと思いますね。

―素敵なメッセージをありがとうございます。本日はお時間をいただき、ありがとうございました。

昭和女子大学 環境デザイン学部 環境デザイン学科准教授 番場美恵子】
昭和女子大学生活機構研究科生活機構学専攻博士課程修了、博士(学術)。一級建築士。
専門分野は住生活学、住居学、建築計画。住まいや地域に関わる住環境について、家族関係、生活、地域コミュニティの視点から分析し、人々が快適に暮らせる空間や環境を総合的に研究する。
著書に「住まいの百科事典」(丸善出版、共著)「地域とつながる高齢者・障がい者の住まい: 計画と設計 35の事例」(学芸出版社、共著)がある。