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インテリアは自分づくりにも活用できる|愛知淑徳大学 創造表現学部 松本佳津教授にインタビュー!

インテリアは自分づくりにも活用できる|愛知淑徳大学 創造表現学部 松本佳津教授にインタビュー!
2024年8月20日

部屋のインテリアを考える際、どのような基準で選ぶべきか悩んだ方もいるのではないでしょうか。漠然とインテリアを選んでしまうと、家具のデザインや色味がズレてしまいがちです。

今回は、インテリア配置や家具選びのポイントについて、インテリアコーディネーターとして活躍しながら大学でインテリアデザインを教えられている愛知淑徳大学創造表現学科建築・インテリアデザイン専攻(※)の松本佳津(まつもと かづ)教授にお話を伺いました。

※:2025年4月より建築学部建築学科住居インテリアデザイン専攻。

目次

監修者
『RASIK LIFE』編集長
工藤 智也

2023年にRASIKを運営する株式会社もしもへ入社後、『RASIK LIFE』編集長に就任。自身が持つ不眠症の悩みをきっかけに、寝具について学ぶ。睡眠検定3級。商品の企画・生産・品質管理・販売までを一貫しておこなっている会社の特徴を活かし、実際に商品をチェックしながら記事を作成。フォロワー数24万人超えのRASIK公式インスタグラムでは、商品のレイアウトなども公開中。
公式:インスタグラム

将来の夢を聞かれてとっさに「インテリアデザイナー」と答えた

ホテルの部屋のスケッチ画像

―本日はよろしくお願いいたします。まずは、インテリアデザイナーとして働くようになったきっかけを教えてください。

松本 佳津さん(以下、松本):私の家は、幼い頃から引っ越しが多い家庭でした。母親が模様替えをするのが好きだった影響もあり、私自身も子ども時代から図面を見たり絵を描いたりするのが好きだったんです。大学では空間デザインを専攻し、卒業後はインテリアデザインの仕事というよりも小売業に就職したんです。企業の店づくりやグラフィックデザインを担当する部署です。そこで店装の面白さに気づいたのが、インテリアデザイナーとして働くきっかけのひとつです。

その後、父親が体調を崩したのをきっかけに実家の建設業を手伝うことになりました。その際、インテリアの仕事なら役に立てると思い、インテリアコーディネーターの資格を取ったんです。バブル崩壊後はインテリアを軸に起業し、実習セミナーや専門学校の講師など人前で話す機会を増やしていくなかで、愛知淑徳大学から声をかけていただきました。現在はインテリアデザイナーとして働きつつ、大学で教授として学生たちにインテリアを教えています。

実は、高校のころに留学先で将来何になりたいのか聞かれたとき、なにも思い浮かばずにとっさに「インテリアデザイナー」と答えたんです。口に出すまでは自分でインテリアデザイナーになるとは考えていなかったのですが、いまではその通りになりました。口に出すと願いは叶うものだと学生には話しています(笑)。

高齢者でも自立して暮らせる「100歳住宅Ⓡ」

「100歳住宅Ⓡ」住宅のインテリア写真

―松本さんが研究されている「100歳住宅Ⓡ」とは、どのような住まいなのでしょうか。

松本:15年ほど前に、高齢社会を念頭においた介護住宅に関する勉強会を実施しました。実際に調査してみると、高齢者といっても全員が病気になってしまうわけではなく、意外と元気な人が8割ぐらいいる状況で驚きました。介護ではなく「自宅で自立して生活したい」と考えている方が多かったんです。

ところが、国の政策では家族介護か介護施設入居が前提になっており、自立して暮らせる住宅のあり方はあまり手がつけられていない分野でした。そこで、高齢者が自立して暮らすための住まいの研究をすることにしたんです。

その際、研究内容を分かりやすく伝えられる言葉を作った方がいいと思い考えたのが「100歳住宅Ⓡ」です。「100歳まで生きられる家」「100歳でも暮らせる家」といった意味ではなく、「自分の家で自立し最期まで豊かで楽しい人生であるためにはどうすればいいのか」のイメージを具体的にさせるために100という数字を使っています

私は、人生の幸福度には自宅のインテリアが関係していると思うんです。自宅は幸せな場所でなければいけないと思うので、そのためにできることを「100歳住宅Ⓡ」を通して模索しています。

「フレキシブルな部分」を持つことが長く快適に暮らすコツ

フレキシブルな部分を残したインテリアの写真

―同じ家で100歳まで快適に暮らすには、どんなインテリア作りを意識すればいいのでしょうか?

松本:「100パーセントを目指してはいけない」「あまり長いスパンで考えすぎない」ことはクライアントに伝えています。家具の好みや家族構成は、時間が経つにつれて変化するものです。それに、家電や社会も変わっていきますよね。

たとえばテレビは、20年前と比べるとずいぶん薄くなりました。当時のテレビ台は古い製品を基準に作られているので、いまのテレビには合わせにくいですよね。また、最近はテレビの代わりにプロジェクターを使う方も増えています。

20年でテレビのサイズや需要が変化するように、いまの生活を基準にインテリアを決め切ってしまうと、将来使いにくさを感じてしまうかもしれません。空間に余裕を持たせつつ、フレキシブルに変えられるインテリアがいいと思いますね。

日本人は最初から100パーセントの完成度を目指してインテリアを考えがちですが、イタリアの部屋づくりを見てみると、気に入らないと3年くらいで家具をいれかえたり、気分転換にクロスを変えてみたり、色味を変えたりといったことは頻繁におこなわれています。インテリアはそのくらい自身のメンタルと生活に影響を与えるものと捉えているんでしょうね。

イタリアの方々のように、100パーセントのうち20パーセントくらいちょっとフレキシブルな部分を残しておくと、インテリア作りで工夫しやすくなると思います。さまざまなことに挑戦しやすくなって、自分らしく暮らせるインテリアを作っていけるのではないでしょうか。

若い方に向けた家具選びのアドバイス

取材を受けている松本さんの写真

―20代や30代でインテリアに興味を持ちはじめた方へのアドバイスはありますか?

松本:はじめてインテリアを選ぶ際は「どういう暮らしをしたいか」から考えてみてほしいですね。そうすると模様替えをする際、それまでの暮らしでの不満点を見つけやすくなります。

家のなかで個々の家具は気に入っているのに全体を見るとなんとなくしっくり来ないといった場合は、インテリアの色が合っていないケースが多いように感じます。

たとえば木製家具は樹種や塗装のつや加減によって色味が異なり、同じ色を使っているつもりでも少しずつ違いがあります。そうした微妙な違いは違和感を覚えやすいんです。

木の種類で揃えたり、思いきって色味を重視したりすると不統一な印象を抑えやすくなると思います。

家具や小物配置は「フォーカルポイント」を意識する

松本さんの自宅リビングの写真

―インテリアの配置で意識すべきポイントがあれば教えてください。

松本:アートやフラワーベースなど目立つ小物を置いたり、スポット照明を当てたりして、視線を誘導してみるといいのではないでしょうか。視点を集中させる「フォーカルポイント」を設定することで、シンプルなインテリアでも良い印象を与えやすくなります

フォーカルポイントは、モデルハウスや住宅展示場でも使われています。大きな梁のように構造上目立たせたくない場所の反対側にフォーカルポイントを置き、視線を誘導しています。

小部屋の場合、ドアの対角線上の一番遠いところに視線が向きますのでフォーカルポイントとなります。人間は空間を認知する際、対角線の長さによって部屋の広さを認知します。そのため、対角線の奥が乱雑だったり、無骨なものがあったりすると、部屋全体の印象が悪くなってしまうんです。

対角線上をスッキリさせるとフォーカルポイントが際立ちます。その部屋のイメージに合わせた小物、テイストに沿った家具を置くと良いのではないでしょうか。私の家のリビングには、ドアの対角線上にワイングラスの収納スペースと一番奥にはワインセラーを置いています。テーマがおうち居酒屋なので訪れた人が飲みたくなるような雰囲気づくりを意識していますね(笑)。

また、小物の背の高さにも気を使っています。奥に背の低い家具を置くと部屋を広く見せやすくなるので、ドアから見て手前に背の高いもの、私の場合は観葉植物ですが、奥に背の低いものを置いています。

暮らす人に合わせた動線づくり

松本さんの自宅キッチンの写真

―小さな部屋のインテリアで注意すべきことはありますか?

松本:動線がぶつからないよう意識することでしょうか。私は、その部屋で実際に人がどういうふうに動くのかシミュレーションしながら、インテリアを考えています。

たとえばベランダに出られる窓がある部屋なら、窓への動線にソファを置いてしまうとくつろいでいる人の前を通らなければいけません。そうすると、くつろいでいる人も、前を通る人も気を使ってしまいますよね。

日本には身体の動きからサイズを考える「身度尺」という考え方があります。畳のサイズは人間の身長や横幅を参考に決められており、廊下の横幅は大人がお盆を持って2人で行き来できる幅を参考に設計されています。

身度尺をふまえた空間に家具を配置するのですから、家具も暮らす人のサイズや動線を意識して配置することが大切ではないでしょうか。ベッドの置き方も、ふたりで寝るとしたら、壁につけるのではなく部屋の中央に置いて、両方から降りられるように置くほうが便利ですよね。

住宅はパーソナルなものなので、暮らす人に合わせる必要があります。そして、インテリア配置はそれを実現する手段になると思います。

家具メーカーに期待することは?

RASIKのステージベッドの画像

―RASIKの家具を見た印象はいかがでしたか?

松本:リーズナブルな価格で若い方をターゲットにしたブランドだと感じました。

私は、インテリアの良さは5つぐらいに分けられると思うんです。機能性であったり、素材や色味へのこだわり、特定の年齢層やユーザーが魅力に感じるデザインであり、そして価格(数字)ですね。

家具メーカーにとって大切なのは、どの良さを優先しているのかわかりやすくユーザーに伝えることだと思っています。高級感や独自のデザイン性など、商品を持っていること自体がステータスになるような家具を作るのか、見た目のかっこよさや統一感で勝負するのか。

ブランドが持つ良さを伝えられないと、なぜその値段なのかが見えてきません。そうなってしまうと、商品の良さを価格(数字)でしか判断できなくなってしまうのです。

また、単品だけで見ると商品の良さは伝えにくいと思います。4年生が卒業プロジェクトとして「大学生の部屋を100案考える」という課題に取り組んでいるのですが、ベッドひとつとっても、部屋の高さやほかの家具との組み合わせによって違う見せ方ができるんです。

デザインが特徴的なベッドや機能性の高いベッドなら、より部屋のインテリアを工夫できますよね。工夫されたインテリアを安い予算で作れると認識できれば、商品をより魅力的に感じられると思います。

いざインテリアにこだわろうと思った際、商品選びで悩み挫折してしまう方が多いかもしれませんが、安くて良い商品が増えれば、試行錯誤を通してインテリアのすごさ、面白さを模索できるようになります。結果的に、インテリア全体の底上げにつながるのではないでしょうか。

買い替え需要が高まれば、ユーザーの目も肥えていき、メーカーもものづくりへの意識が高まっていく。いい相乗効果が期待できると思います。

インテリアが持つ可能性を活用してほしい

大学で授業をする松本さんの写真

―最後に、記事を読んでくれた人になにかメッセージがあればお願いします。

松本:私は、インテリアはさまざまな可能性を持つ領域だと思っています。日本ではインテリアと聞くと「物」というイメージがありますが、インテリアの語源は「内部・内面の」という意味を含んでいます。

つまりインテリアは心象風景につながっていて、その人を表現する方法として活用できるんです。理想のイメージに合わせてインテリアを作れば、自分自身も理想に近づいていけるかもしれません。

世の中にはインテリアが持つ可能性を理解してもらって、自分らしく生きる方法のひとつとして活用してほしいですね。そのために、インテリアの面白さを伝えるのが私の使命だと思っています。

―素敵なメッセージをありがとうございます。本日はお時間をいただき、ありがとうございました。

愛知淑徳大学 創造表現学科 建築・インテリアデザイン専攻教授 松本 佳津】
専門はインテリアデザイン、インテリアコーディネート。女子美術大学短期大学部造形科卒業後、株式会社丸井にて販売促進担当。結婚、出産を経てインテリアデザイナーの道へ。クリニック・住宅・店舗の空間デザイン、リノベーションに25年以上関わり、「インテリアのチカラ」「インテリアの愉しさ」をさまざまな切り口で提案している。2015年JAPANTEXインテリアデザインコンペ優秀賞を受賞。2020年第2回ヘルスケアベンチャー大賞アイディア賞受賞。名古屋工業大学大学院博士後期課程修了、博士(学術)。
2025年4月より新設される建築学部建築学科では、住居インテリアデザイン専攻教授に就任予定。