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パッシブハウスから学ぶ暑さ・寒さ対策|武蔵野美術大学 建築学科 持田正憲教授にインタビュー!

パッシブハウスから学ぶ暑さ・寒さ対策|武蔵野美術大学 建築学科 持田正憲教授にインタビュー!
2024年8月23日

夏の猛暑日や冬の厳しい寒さが続き、室温対策に悩んでいる方もいるのではないでしょうか。エアコンの風が苦手な方や省エネを意識したい方は、窓際の設備から暑さや寒さ対策を考えてみるのがよいかもしれません。

今回は、住宅の設備から暑さ・寒さなどを対策する建築設備エンジニアとして活躍されながら、大学では建築環境デザイン、環境工学や建築設備を教えられている武蔵野美術大学造形学部建築学科の持田正憲(もちだ まさのり)教授にお話を伺いました。

目次

監修者
『RASIK LIFE』編集長
工藤 智也

2023年にRASIKを運営する株式会社もしもへ入社後、『RASIK LIFE』編集長に就任。自身が持つ不眠症の悩みをきっかけに、寝具について学ぶ。睡眠検定3級。商品の企画・生産・品質管理・販売までを一貫しておこなっている会社の特徴を活かし、実際に商品をチェックしながら記事を作成。フォロワー数24万人超えのRASIK公式インスタグラムでは、商品のレイアウトなども公開中。
公式:インスタグラム

「関西国際空港の屋根のデザイン」から建築設備に興味を持った

関西国際空港の屋根の形について話す持田さん

―本日はよろしくお願いいたします。まずは、建築設備に興味を持たれたきっかけを教えてください。

持田 正憲さん(以下、持田):建築設備の分野に興味を持ったのは、学生時代に建築誌で見かけた関西国際空港のデザインがきっかけです。

関西国際空港の屋根は独特な形をしているのですが、大きな空間に効率よく風を流すために、「建築家とロンドンの建築設備エンジニアが気流シミュレーションを駆使して決めた形」だと雑誌に書いてあったんです。空港のデザインを見て、意匠設計ではなくエンジニアリングから建物の形が決められることにとても興味が湧いて、建築設備設計の道に進もうと決めました

大学卒業後は設備設計事務所に就職し、学校や庁舎といった公共建築の設備設計を11年ほど担当したのですが、少し違う分野で建築家と一緒に仕事をしたいと転職を考えるようになったんです。その際、転職会社の方からとある外資系の設計事務所を紹介され、とても驚きました。紹介されたその事務所は、関西国際空港の環境エンジニアリングや設備設計をやっていた事務所だったんです。

まさに自分がやりたいと思っていた仕事を、「建築設備に興味を持ったきっかけの事務所」でできることに縁を感じて、転職を決意しました。そこから、環境エンジニアリングの視点でアイデアを出し、建築家と一緒に環境をデザインする道に進んでいきました。

仕事を通して、建築家の方から「設備基準に沿って設備設計する人は多くいるけれど、建築家と一緒になって考えてくれる人は少ないんだよ」と言われたのが印象的でしたね。

武蔵野美術大学だからこそできた教授とエンジニアの両立

自宅の設備について話す持田さん

―その後、大学教授として働くことはどのようなきっかけだったのでしょうか?

持田:独立して事務所を構えた時にも、いくつかの大学で非常勤講師として環境工学や建築設備を座学で教えていましたが、建築設計を一緒に教えてほしいと、ある大学の意匠系の先生から声をかけられたんです。その大学では、その先生が持つ建築デザインのスキルと私が持っている建築環境デザインのスキルを組み合わせ、設計と環境を一緒に考えるという設計課題に取り組むという機会をいただきました。

また、非常勤講師として働くなかで「学生と一緒に考える面白さ」に気づいたんです。その後、さまざまな偶然が重なり、武蔵野美術大学で環境設備の先生になりませんかと声をかけていただきました。

一般的には、大学で働くには現在の職を辞めて研究職につくことになると思いますが、美大である武蔵野美術大学は、自分の設計活動を続けながら大学教授もできる形式でした。自分の設計事務所を持ち、現役で設計やデザインをしている建築家やエンジニアといった方々が、武蔵野美術大学では先生として働かれていたんです。

「専任教員は設計・デザインが専門分野」という点は武蔵野美術大学の特徴でもあり、私も「設備設計を続けられるのであれば、ぜひ」と教授として働きはじめました。学生には、建築環境デザインや設備計画をどのようにして建築デザインに組み込むかという視点で、考える工程を教えています。

環境工学の「一丁目一番地」を実践した自宅

持田さんの自宅の全館空調の写真

―ご自宅を建てる際に、建築環境の面からこだわった部分を教えてください。

持田:私は自宅を建てる際に、世界最先端の省エネ基準であるドイツの「パッシブハウス」の基準を満たした家を作りました。

過去に環境省主催で実施されたエコハウスプロジェクトに参加したのですが、その際、私は東北芸術工科大学の先生方と共同で設備設計に取り組んだんです。

それまで、私は「住宅は暑かったり寒かったりするのは当たり前」と思っていました。しかし、プロジェクトでできあがったエコハウスは断熱性能を高めており、太陽の日射だけで暖かいんです。山形は外が氷点下という環境ですが、晴れた日の朝方は室温が16度を下回らないことに驚きました。住宅環境にこだわると、そういう住宅ができるんです。これはすごいなと思いました。

その後、環境工学の教科書をみたのですが、1ページ目に山形のエコハウスで取り入れられていた技術が載っていたんです。土地の形状とは関係なく住宅の正面を南向きに向けたり、夏場は日差しが入らないように庇(ひさし)を出したりする技法などですね。実は、あのエコハウスは「環境工学の1ページ目」の学びを守ることで生まれた家だったんです。

それらを経験したことで、私も環境工学の基礎、一丁目一番地みたいなところから取り組んだ住宅に住んでみようと思いました。自分が暮らしていくなかでどのくらいエネルギーがかかるのか、どのくらい室内の温熱環境が変わるかを実際に住んで体験しようと思ったんです

環境工学の基礎に忠実なパッシブハウスでの暮らしを続けながら、大学で都心や狭小地でも同じことができないか模索し、今も日々の体験を活かした研究に取り組んでいます。

日射を最大限に活用できる造り

キャットウォークの窓を開けた写真

―日射はどのくらい自宅環境に影響を与えるのでしょうか?

持田:夏はいかに日射を室内に入れないことを意識するかが非常に大切です。逆に、冬は日射を取り入れて、かつ取り入れた熱を外に出さないことが重要になります。

断熱性能を高めた家では、日射で取り入れた熱が逃げません。なだらかに室温が落ちるので、冬場に暖房を入れなくても過ごしやすくなります。室内は、晴れた日であれば暖房を入れていなくても朝方の室温は20度前後になります。朝寒くて布団の外に出られないとか、トイレが寒いといったことはありません。

また、暖房を使わずに部屋を温められるので、間仕切りを最小限にした構造になりました。

リビングとダイニングの写真

―天井が高いのも日射へのこだわりから生まれた構造なのでしょうか?

持田:実は、家のデザインコンセプトは子どもたちに決めてもらったのですが、天井の高さはそのコンセプトに沿った結果です。

建築雑誌を見せたところ、大きな空間にキッチンや水回りが箱のように置かれ、そのキッチンの上も居場所になるコンセプトを子どもたちが気に入っていたので、そのまま家の構造の参考にしました。

結果的に、建築環境への良い影響もありましたね。屋根の作りを一般的な三角形(切妻屋根)から南側を高くした一枚板が斜めにかかる形状にしたら、空間の上下で日射の入れ方を調整でき、過ごし方にも配慮できる家に仕上がりました。

家の周辺にある道路は交通量が多く、普通に計画すると窓を開けにくくなりますが、天井が高いことを活かして空間の上部を「開ける空間」、下部を「閉じられる空間」として使い分けると、いつも窓を開けられるようになりました。

家をひとつの大きな空間として設計していることに加えて、高い位置に窓があるので、上の窓から取り入れた光が家の奥まで届くんです。

そのおかげで、ウッドデッキに連続する大開口の窓を設けたダイニングも、あえて窓を設けないプライベートなリビング空間も自然光のみで明るい空間を作ることができました。

誰でも取り組める暑さ・寒さ対策

持田さんの家のタープの写真

―一般的な家庭が住んでいる家で暑さや寒さを対策するには、どのような方法があるのでしょうか?

持田:建物の方位や周囲の環境が影響してしまうので、一般的な家で暑さや寒さを対策するのは一言で答えるのはなかなか難しいですね。そのなかで挙げるとしたら、窓周りの対策でしょうか。「夏は75パーセントの熱が窓から入ってくる」と言われるほど、窓は重要な箇所です。

日射を部屋のカーテンで防ぐと、日射を部屋のなかで受け止めるため、熱が部屋に入ってしまいます。そのため、夏場は外で日射を遮蔽することが大切です。

たとえば外にタープやロールスクリーンをつけて、家の外で日射を防ぐのもよいかもしれません。また、ホームセンターで買える「よしず」をガラスの前に立てかけるだけでも対策になります。

一軒家であれば、屋根に工夫を凝らすのも対策のひとつです。日光を反射する白い塗料を使ったり、反射材を敷いたりすると、屋根からの熱を防ぎやすくなるでしょう。

持田さんの家のハニカムシェードの写真

一方で、冬は「50パーセントの熱が窓から逃げる」と言われています。そのため、熱が逃げないよう窓に対策をするのがおすすめです。

後付け用の内窓を活用し、ガラスを二重にしたりサッシを樹脂製にしたりすると、熱が逃げにくくなります。そのほかにも、それ自体で空気層をつくり断熱効果が高いハニカムシェードをカーテンの代わりに設置することやホームセンターで売られている中空ポリカーボネートという空気層を挟んだプラスチックの板を使うのも、簡易的な対策としておすすめです。どちらも空気層が断熱になる造りなので、室内の温度が変わります。

窓際の対策をおこなうと、窓から逃げる熱の量が少なくなるので、窓際と部屋の中央での温度の不均一もなくなります。

妻の実家も築40年ほどの家なのですが、ホームセンターでポリカーボネートを買って窓にはめ込んだ結果「今まで寒くていられなかった窓際にいられるようになった」とか「ストーブに使っていた石油の減りが緩やかになった」と言ってもらえています。

暑さや寒さ対策の観点で家具配置を考える方もいるかもしれませんが、暑さや寒さの原因に直接対策ができれば、もっと自由に家具を配置できると思うんです。

たとえば、エアコンの風が苦手な方が風を気にして家具配置を変えるとして、そもそもエアコンの運転を控え目にしながら室温が保てるなら、その問題自体がなくなりますよね。

タープや調湿材で日射や湿度そのものを対策できれば、壁紙やレイアウトにこだわりながら快適な住まいの提案に結び付けられる気がします。

RASIKは「かゆいところに手が届く」印象

RASIKのロフトベッドを置いたコーディネート写真

―RASIKの公式ストアを見てどのような印象を抱きましたか?

持田:ユーザーが家具を買うときに考えたりや悩んだりすることに対して、ホームページ上に回答が書かれている点が良いなと思いました。

たとえば私の家の子ども部屋にはロフトベッドを置いていますが、サイズや作り方の都合で部屋に置けるのか不安になり、その家具の販売店に足を運んで実物を確認してから購入しました。そのような購入者の不安への回答がホームページで紹介されているのは嬉しいですよね。

また、商品がコーディネートと一緒に紹介されているのも嬉しいと思います。私のようなインテリアに詳しくない人でも、今持っているテーブルにはこういう椅子が合うんだとわかるので、色や家具をアレンジしやすいですよね。

窓側の結露対策に関するRASIK LIFEの記事を読んだのですが、知らない人からすれば、そういう記事もすごく参考になると思います。答えが見つかって、そこに商品が結びついている。かゆいところに手が届くような作りになっているなと感じました。

理論と実践の横断を意識することが大切

一言メッセージを話す持田さん

―最後に、学生に向けてメッセージがあればお願いします。

持田:私の授業では、理論を知ることと、実践し、体感することをセットにしています。

理論と実践のバランスはすごく大事です。エンジニアは、関連する技術だけを知っていれば良いというわけではありません。私たちが作っているのは建築や室内空間なので、デザインも知っておく必要があるんです。

反対にデザイナーも、そういった建築環境のことを抑えておく必要があります。実際に人が住む場所なので、人の住まい方、室内環境とデザインをセットで考えないといけません。

大学の授業だけでは本物を見たり実際に体験したりしないとわからないこともあると思います。例えば、環境工学の授業では、座学の他に模型を使って温熱環境の実験し、最後に希望者を集めて我が家を見学しに来てもらっています。

南側の日射から断熱性を高める室内環境や熱環境を体感してもらい、自分たちが習っていることがこういうふうに結びつき、こういう暮らしになるんだということを理解してもらっています。

建築学科を目指す学生に「入学に向けて何をすれば良いでしょうか」と聞かれることがありますが、「とにかく自分が気になる建築や好きな建築家の作品を見に行って体験、体感することが重要だよ」と伝えています。

建築は、意匠、設備、構造、ランドスケープなどの分業体制となっていますが、良いと思う建築は、建築家が構造や環境設備まで統括して考えているケースが多いです。加えて、構造や設備設計者が建築デザインや空間づくりに対して提案することも増えています。建築についてディスカッションできるチームはすごく良いチームですし、そういうチームだからこそ良い建物ができています。

人が住まう空間は理論と実践を横断しながら作られるので、建築環境や省エネルギーといった理論に、デザインという実践を横断させつつ考えられるよう、チャレンジしてほしいと思います。

―素敵なメッセージをありがとうございます。本日はお時間をいただき、ありがとうございました。

武蔵野美術大学 造形学部 建築学科教授 持田正憲】
1996年、工学院大学工学部建築学科卒業。設備設計事務所、組織設計事務所での設備設計実務を経て、2018年 MOCHIDA建築設備設計事務所を設立。2021年武蔵野美術大学造形学部建築学科教授。
建築環境デザインを含んだ多様な用途や規模の環境・設備設計を行う。大学での研究テーマは建築と環境・設備の融合、パッシブデザインによるゼロカーボン建築。
主な建築作品(設備設計)にROGIC-ROKI Global Innovation Center-(小堀哲夫建築設計事務所)、主な著書に『ビル管理技術者のための設備のしくみがわかる本』(共著)などがある。