「住む人の思い出」をインテリアの主役にする｜読売理工医療福祉専門学校 建築学科 小川 貴之先生にインタビュー！
2025年3月06日
新生活を迎えるにあたり、インテリアコーディネートに悩んでいる人もいるのではないでしょうか。趣味の小物は積極的に考えられても、大きな家具に対する興味があまり湧かないという人もいるかもしれません。
今回は、インテリアの考え方や家具に興味を持つきっかけについて、読売理工医療福祉専門学校 建築学科で学科長を務める小川 貴之（おがわ たかゆき）先生にお話を伺いました。
2023年にRASIKを運営する株式会社もしもへ入社後、『RASIK LIFE』編集長に就任。自身が持つ不眠症の悩みをきっかけに、寝具について学ぶ。睡眠検定3級。商品の企画・生産・品質管理・販売までを一貫しておこなっている会社の特徴を活かし、実際に商品をチェックしながら記事を作成。フォロワー数50万人超えのRASIK公式インスタグラムでは、商品のレイアウトなども公開中。
公式：インスタグラム
街の性質を含めて住宅設計に落とし込む
―本日はよろしくお願いいたします。まずは、住宅設計に興味を持たれたきっかけを教えてください。
小川 貴之さん（以下、小川）：私が生まれた群馬県館林市は養蚕業が盛んな地域でした。子どものころは実家の敷地内にある古民家でよく遊んでおり、築100年を超える家の梁や柱に触れながら幼少期を過ごしたことが、建築に興味を持ったきっかけだと思います。
大学は建築学科に進んだのですが、次第に建築の周辺部分に興味を持ちはじめ、卒業後は別の大学院で都市計画や街づくりについて研究しました。大学院を出たあとは大規模建築を手がける組織設計事務所に就職しましたが、大学院で学んだことを活かして「都市計画の延長」として建築を考えていましたね。その後、クライアントに近い立場で関わりたいと考え、建築家が主催するアトリエ事務所に転職しました。
街のなかに建物が新しくできると、周囲に少なからず影響を及ぼします。そこで、周辺の環境や成り立ちといった「街の性質」を含めて設計に落とし込む必要があります。たとえばクリニックを設計する場合、どのような患者さんが来院するのかをクライアントである先生に具体的に確認します。外来治療だけでなく、地域の「拠り所」として機能する建築になる様に、あらゆる角度から視野を広げてアプローチしながら設計を進めています。
住宅設計と都市計画ではスケールに違いはありますが、一つひとつの建築が与える影響を考えることは、切っても切り離せない関係だと考えています。
授業を通して建築のやりがいを伝えたい
―読売理工医療福祉専門学校の建築学科ではどのような授業を担当されていますか？
小川：私の担当授業は主に設計製図です。2年生の設計製図Ⅱという授業では、1年生で学んだ製図の描き方をふまえつつ、指定したテーマに対して周辺環境を読み解いた上で、最適な建築を計画するプロセスの修得を目指すものです。
クライアントに自分の意図が伝わるように図面を描くことは、建築を仕事にするうえで重要なスキルなので、とくに意識して教えるようにしていますね。また、建築は建物を誰がどのように利用するかという「ソフトの部分」をイメージすることも大切です。学生とのコミュニケーションを通して設計した建築の具体性を高めていくところまで一緒に考えています。
そのほかにも建築学科長の立場としては、学生の2年間という短い期間でいかに建築のやりがいや楽しさ、厳しさを伝えられるかを考えています。とくに「実際に建築を作り上げる機会」は、学生にとっては貴重な経験です。そのため、木造の柱や梁をグループで組み立てるモックアップ実習の授業も実施しています。
身体を使って木造の軸組工法を理解すると、軸組の図面を描く際に図面と実際の組み立て工程を結びつけやすくなります。学生から「授業を通して部材の関係性が理解できました」と言われたときは嬉しかったですね。
コミュニケーションを通して暮らしを深堀りしていく
―小川さんが住宅を設計する際にこだわられている点を教えてください。
小川：クライアントとのコミュニケーションを大切にしています。時にはさまざまなビジュアルを用いて、クライアントと一緒にイメージを切り貼りする「コラージュ」や連想ゲームを交えたワークショップをおこなったりしながら、気軽に家づくりをスタートできるように工夫しています。クライアントとの共通認識を持ちながら設計を進められるよう意識していますね。
私は、クライアントの暮らしを深掘りすることは、住宅設計において非常に重要な要素だと考えています。最近はSNSの投稿をはじめとして、ビジュアル的な情報をさまざまな場所から手に入れることができます。クライアントはさまざまなイメージを切り取って共有してくれますが、共有されたイメージをさらに深掘りして、将来的にどのような住み方をしたいのかを聞く工程を大切にしているんです。大変な作業ですが、むしろ時間をかけるようにしていますね。
住む人の思いがインテリアのアクセントになる
―インテリアで意識されている点はありますか？
小川：空間は住んでいるクライアントの思いによって彩られていくべきだと考えているので、基本的には「あまり主張しない空間に調和するインテリア」を意識しています。
お気に入りのアイテムを主役にしながら空間を作り上げていくことも、インテリアの楽しみ方のひとつです。住宅を設計する際にも、クライアントに好きな家具を選んでもらい、それに合うような壁紙やフローリングを提案する手法を取ることもありますね。私から家具選びについて提案もできますが、なるべくクライアントが欲しいと思った家具を空間に落とし込みたいと考えています。
たとえば以前手がけたヘアサロンを併設した住宅では、クライアントからヘアサロンで使うチェアの色味について要望をいただきました。インテリアコーディネーターの観点では、チェアの色味を活かしつつ部屋を彩っていくと思うのですが、私の場合チェアの色味に合う素材や空間づくりを心掛けていきました。
家具選びに悩む人へのアドバイス
―新生活の家具選びについてアドバイスをお願いします。
小川：建築の観点からアドバイスするなら、限られたスペースにベッドや机をどう配置するのか、サイズをとくに意識するといいと思います。
家具についての意識を高めるためには、建築学科の学生には「自分の好きな家具をひとつ持つといいかもしれない」と伝えていますね。安価な家具を買ってリメイクしたり、材料を買って自作することでも、家具への意識が芽生えると思います。
私も学生時代にホームセンターで材料を買ってきて、部材の留め方や金物選びに試行錯誤しながら本棚などを作っていました。自分で試行錯誤して得た経験は、失敗も成功も含めて現在の仕事でも活かされています。
RASIKの家具からは「馴染みのよさ」を感じた
―RASIKの第一印象を教えてください。
小川：ホームページが可愛くて優しい印象で好感を持ちました。
また、家具が持つ素材感を活かす「優しさ」をプロダクト全体から感じます。普段の生活に使いやすい、馴染みのよい家具だという印象を受けましたね。
コーディネートのページも参考になりました。購入者も、家具が居住空間に置かれたときのイメージを掴みやすいのではないでしょうか。すでに自分が持っている家具をその空間に当てはめた際のイメージもしやすいと思います。
建築は相手の記憶に残る仕事
―最後に、授業で大切にされていることや建築・インテリア業界を目指す人へのメッセージをお願いします。
小川：建築は、自分のアイデアやデザインが現実で形作られるとともに、長きにわたって人々に利用してもらえる点が魅力です。また、クライアントから直接感謝の気持ちを聞ける点も嬉しい瞬間のひとつですね。相手の記憶に残る仕事ができるのが、建築に携わるなかで一番のやりがいだと感じています。
ほかの業種では、自分の仕事を目に見える形で認識したり、直接感謝されたりする経験は少ないのではないでしょうか。これから建築やインテリアを学びたい人には、業界ならではのやりがいを伝えたいと考えていますし、いま教えている学生にも同じように伝えていきたいなと考えています。
―素敵なメッセージをありがとうございます。本日はお時間をいただき、ありがとうございました。
【読売理工医療福祉専門学校 建築学科 学科長 小川 貴之】
一級建築士。明治大学理工学部建築学科卒業。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。INA新建築研究所、アトリエ事務所を経て、小川貴之建築研究室を設立。読売理工医療福祉専門学校では建築学科の学科長を務める。
主な活動として第3回リノベーションアイディアコンテスト入選（共同制作）、川崎市都市計画マスタープラン多摩区構想検討委員会の公募委員、「パーフェクトワールド（フジテレビ）」「サロガシー（第32回フジテレビヤングシナリオ対象・フジテレビ）」の監修など。
代表作に「足利の店舗併用住宅」などがある。
