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イタリアでの暮らしで感じた「こだわりの強さ」|京都美術工芸大学 建築学部 安田光男教授にインタビュー!

イタリアでの暮らしで感じた「こだわりの強さ」|京都美術工芸大学 建築学部 安田光男教授にインタビュー!
2024年11月26日

イタリアのおしゃれな街並みや暮らしに憧れる人のなかには、イタリアンテイストの部屋づくりをしたいと悩む人もいるでしょう。また、輸入家具に合わせたインテリアの選び方が分からない人もいるかもしれません。

今回は、イタリアのミラノで建築・プロダクトデザイン経験を持つ京都美術工芸大学 建築学部 建築学科の安田 光男(やすだ てるお)教授にお話を伺いました。

目次

監修者
『RASIK LIFE』編集長
工藤 智也

2023年にRASIKを運営する株式会社もしもへ入社後、『RASIK LIFE』編集長に就任。自身が持つ不眠症の悩みをきっかけに、寝具について学ぶ。睡眠検定3級。商品の企画・生産・品質管理・販売までを一貫しておこなっている会社の特徴を活かし、実際に商品をチェックしながら記事を作成。フォロワー数35万人超えのRASIK公式インスタグラムでは、商品のレイアウトなども公開中。
公式:インスタグラム

イタリアでの出会いをきっかけに教職への道を考える

生徒と話す安田さんの写真

―本日はよろしくお願いいたします。まずは、住宅設計に興味を持たれたきっかけや教授として働くきっかけを教えてください。

安田光男さん(以下、安田):大学で建築を学び始めた頃に、後に師事することになる建築家の伊東 豊雄(いとう とよお)さんの「中野本町の家」という作品を見たのが住宅設計に興味を持ったきっかけです。

教壇に立つきっかけは「若い人にも建築に興味を持ってほしい」「自分の経験を若い人に伝えることは社会への貢献になるのではないか」と考えたからです。

私はある時期8年ほどイタリアに滞在していたのですが、イタリアで私を受け入れてくださったのがアンドレア・ブランジさんというPolitecnico di Milano(ミラノ工科大学)インテリア学部の教授でした。

私が住んでいた場所はアンドレア先生の家や事務所に近く、仕事を手伝うなかで先生は私に学生に教える機会や教壇に立つ機会を作ってくれました。イタリアに住みはじめた頃は先生になりたいとは思っていませんでしたが、アンドレア先生の影響で教えることに興味を持ったんです

文化庁の制度を利用してイタリアへ

イタリアの街並みの写真

―イタリアにはなぜ行かれたのでしょうか?

安田:大学を卒業した後、私が建築に興味を持つきっかけをつくってくれた伊東豊雄さんの建築設計事務所に就職し、その後、独立して仕事をはじめました。独立して3年経った頃に、伊東さんに今後のことについて相談したところ「海外に行ってみるのもいいんじゃないか」というアドバイスをいただいたんです。

文化庁の「新進芸術家海外留学制度(現在は新進芸術家海外研修制度)」を利用して海外に行くことにしたのですが、そのためには受け入れ先を決める必要がありました。そこで伊東さんが「一番仲がいい人」と紹介してくれたのが、イタリアのアンドレア・ブランジ先生でした。

制度を利用して留学できる期間は1年間でしたが、アンドレア先生から「2年目以降もいたらどうだ」と声をかけていただき、ミラノの建築家の方を紹介してもらい、建築家やデザイナーとして働きながら残りの7年を過ごしました。

日本とイタリアの建築の違い

模型を見ながら建築について話す安田さんの写真

―イタリアで設計の仕事をするなかで、イタリアならではの住まい方を感じることはありましたか?

安田:イタリアは基本的に新築が少ないので、リノベーションやインテリアの仕事が多かったです。私が住んでいた建物も、築100年ほどの家で、元々は貴族の邸宅を集合住宅に変えた建物です。

天井高も、イタリアならではの特徴といえます。日本では建築基準法で居室の最低限の高さが2.1メートルと定められていますが、イタリアでは原則2.7メートルになっています。照明や室内装飾、窓や開口部も天井の高さを意識したデザインで、インテリアや家の形状、街並みまで日本とは異なる雰囲気を感じました。

生活様式が建築設計に影響していたことも印象に残っています。椅子やベッドの高さ、床の素材や壁の塗装まで土足での生活に合わせたものが使われていました。また設計を手がける際は「玄関からリビングを介さずに行く個室を作らない」「テラスにも食事ができるスペースを作る」「朝食用とディナー用で食卓を分ける」といったことを意識するようクライアントから要求されました。

展示会を通して感じた「インテリアへの意識の高さ」

安田さんが設計した展示場の写真

―イタリアの仕事で印象に残っているエピソードはありますか?

安田:イタリアの建築家国家資格を取得した頃アンドレア先生から「せっかくミラノにいるのだから、プロダクトデザインを手がけてみたらどうか」といわれ、ステファノ・ジョバンノーニというプロダクトデザイナーの事務所で働きました。特にアレッシー(Alessi:日用品の製品をデザイナーと共同開発をする世界的に有名なメーカー)のプロジェクトに参加し、洗面台や家具、コードレスフォンなどのデザインをしていましたね。

あるとき、日本の衛生陶器メーカーが「フオーリサローネ」というミラノの町中でおこなわれる展示会に参加するということで、展示場のデザインを担当することになりました。借りた建物を丸ごと改装して展示空間を作ったんです。

その際に、町の人が積極的に展示会場をまわる様子を見てイタリアのインテリアに対する意識の高さを感じました

空間との方向性の合致を意識したインテリア選び

インテリア選びについて話す安田さんの写真

―ご自宅のインテリアを選ぶ際にこだわっている点はありますか?

安田:材料や色味が空間にあっているか気にしていますね。私の家は白と黒を基調とした2種類の部屋があるのですが、白い部屋には白系統の家具を、黒い部屋には黒系統の家具を置いています。しかし黒系統の家具と一口にいっても、材料によってトーンは異なります。黒く塗られたコンクリートと木材では異なるトーンになりますし、色味についても赤系、青系などに細かく分類されています。

既製品の家具を組み合わせる際は、素材と色味の方向性をぴったりと統一させるのは難しいです。そのため、最初に空間との方向性が合っているかを意識して選ぶようにしています

RASIKには「日常生活の困りごと」を解決できる家具が多い

RASIKのダイニングテーブルの写真

―RASIKの家具を見た印象はいかがでしたか?

安田:若い人の生活スタイルにピンポイントで視点を合わせている点が素晴らしいと思います。日常生活の困りごとを解決できるアイデアを盛り込んだ家具が多く、製品コンセプトの的確さに驚きました。

コンセプトを消費者目線まで嚙み砕く独自性に加え、素材の種類を色味でカバーしている点をはじめとした価格面の工夫も感じました。

自分がやって苦にならないことが強みになる

生徒の研究を見る安田さんの写真

―最後に、授業で大切にされていることや学生へのメッセージがあればお願いします。

安田:建築デザインは作る側の目線で考えてしまうと、使う人に負担を与えてしまいます。授業では、一度ゼロに戻って「住んでいる人の目線、使う人の目線」で考えるよう伝えていますね。

また、学生たちには自分の得意分野を見つけるようアドバイスしています。自分がやって苦にならないことは、きっと強み、オリジナルになるんです。自分が向かう方向に「ハマれる」人ほど歩みは速くなります。私たちが指導しなくても、自分で研究していけるんです。

逆に、私たちが逐一教えてしまうと、自分から興味を持ちにくくなってしまいます。周りからいわれなくてもやれるものを見つけられたら、それが一番です。たとえすぐに見つからなかったとしても、焦る必要はありません。探す方向を決めて一日一日を過ごし、苦にならないことが自分のどこにあるのかぜひ見つけて伸ばしていってほしいですね。

―素敵なメッセージをありがとうございます。本日はお時間をいただき、ありがとうございました。

京都美術工芸大学 建築学部 建築学科 教授 安田光男】
博士(学術)・一級建築士・イタリア政府公認建築士・建築基準適合判定資格者・宅地建物取引士。
東京大学工学部建築学科卒業。 京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科博士後期課程修了。(株)伊東豊雄建築設計事務所での勤務を経て、文化庁新進芸術家海外留学制度にて渡伊。ミラノにて建築設計、インテリア・プロダクトデザイン、古代ローマ住宅研究に携わる。
Yasuda Architetto Studio代表、日本文理大学客員教授を経て現職。 邑楽町役場庁舎設計競技入賞、鬼石町多目的ホール設計競技佳作など受賞多数。 共著書として「僕たちは何を設計するのか―建築家14人の設計現場を通して」(彰国社)。