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シンプルな空間は取捨選択から生まれる|相模女子大学 生活デザイン学科桑原 茂教授にインタビュー!

シンプルな空間は取捨選択から生まれる|相模女子大学 生活デザイン学科桑原 茂教授にインタビュー!
2025年1月31日

おしゃれでシンプルな部屋をつくりたいと考えていても、レイアウトや家具選びで悩んでいる人もいるのではないでしょうか。

今回は「シンプルでスタイルのある建築」をモットーに建築家としても活躍される、相模女子大学 学芸学部 生活デザイン学科の桑原 茂(くわはら しげる)教授にお話を伺いました。

目次

監修者
『RASIK LIFE』編集長
工藤 智也

2023年にRASIKを運営する株式会社もしもへ入社後、『RASIK LIFE』編集長に就任。自身が持つ不眠症の悩みをきっかけに、寝具について学ぶ。睡眠検定3級。商品の企画・生産・品質管理・販売までを一貫しておこなっている会社の特徴を活かし、実際に商品をチェックしながら記事を作成。フォロワー数41万人超えのRASIK公式インスタグラムでは、商品のレイアウトなども公開中。
公式:インスタグラム

教壇に立つことで考え方が大きく変わった

桑原さんが設計した「いつも日なた、いつも日かげの家」の写真

―本日はよろしくお願いいたします。まずは、住宅設計に興味を持たれたきっかけと、教授として働くことになったきっかけを教えてください。

桑原 茂さん(以下、桑原):高校2年生のとき、偶然書店で安藤忠雄さんの「風の教会」が表紙になっている雑誌を見かけました。何気なく「かっこいい建物が映っているな」と思い手にしたのですが、そこで初めて建築設計という仕事を知ったのがきっかけです。

私はどちらかと言えば理系の勉強が得意で、絵を描くことも好きだったので、建築なら両方を活かせると感じましたね。また安藤さんの武勇伝にも惹かれ、建築をやってみたいという気持ちは強まっていきました。その後、大学に入学して建築家の先生と接していくなかで生き方や考え方から刺激をもらい、徐々に学校で教えることにも憧れを持つようになっていきました。最初は専門学校の方から声をかけていただき、少しずつ教える仕事をしていくなかで自分も複数の大学で非常勤講師をやるようになりました。

私が実際に講師になってから気づいたことですが、講師になったからといってすぐに上手に教えられるわけではありません。講師こそ勉強しなくてはいけないんです。

誰かに何かを伝える行為は、伝える側の考え方が問われます。たとえば「こういう風にしたほうがいい」「こういうことは考えている?」「こんな考え方もあるね」という話をする際、はたして自分の設計活動で、そこまで考えられているのかという疑問がダイレクトに跳ね返ってきます。

設計の仕事をする際にも、自分の学生がこの問題を持ってきたらどうアドバイスするのか考えるようになりました。別視点からのアプローチを考えられるようになり、自分の活動におけるものの見方が大きく変わった気がします。

生徒と教員の関係性が変わってきている

生徒と教員の関係性について話す桑原さんの写真

―デザイン学科で教えるようになって気づいたことはありますか?

桑原:これまでは「建築の面白さ」について考えてきましたが、最近はメタ思考的に物事を見下ろせるデザインの特徴に気づき、「デザインの面白さ」についても考えるようになりました。そう考えるようになったのは、やはり教える側に立つことで考え方が変わってきたからかもしれません。

また、教員をしていると「もしかしたらこうできるかも」という可能性を学生から共有してもらえるのが楽しいですね。

相模女子大学の生活デザイン学科は入学時に専攻を選ぶ必要がありません。そのため私が担当する建築系の授業に、建築を学んできていない学生が受講しにくることもあります。建築知識のない学生は技能的に不足している点はあるものの、「建築のものの見方」に捉われない発想力があるんです。

物に対するアプローチの仕方や考えの幅を互いに刺激しあえる点が、現代における大学のメリットと言えるのではないでしょうか。学校の「教える、教えられるという関係性」が変わってきていると思います。単に技術的なことを教わるなら、ウェブサイトのほうが効率よく学べることもある時代です。理想としては、生徒と教員がお互いにものづくりに対する楽しさを感じあえる瞬間があるといいなと思います。

シンプルとスタイルを両立させる方法

桑原さんが設計した「三叉の家」の内容の写真

―「シンプルでスタイルのある建築」を作る際はどんなことを意識していますか?

桑原:実は、私は片付けが非常に下手なんです。一日のうち何分間を探し物に費やしているかわかりません。ですが、片付けることを諦めているわけではありません。それがうまく実行できるかどうかは別ですが、自分なりに断捨離の方法や整理の仕方を勉強しています。その結果、住まい手さんから整理された空間づくりについて相談されたとき、自分でも体験した具体的な方法を伝えられるようになりました。

建築の仕事は、家づくりでは住まい手さんに具体的な方法を共有して、一緒に取捨選択していくようにしています。こちらから一方的に提案するのではなく、住む人と悩みを共有しながらデザインを導き出していくスタンスが、いまのスタイルを生み出しているのかもしれません

また、建築で一番重要なのは構造です。その次は断熱性の高さだと考えています。私はインテリアをはじめとした見た目の部分は、構造について話し合うなかで見えてくる依頼者の価値観に沿って選んでいます。

インテリアは建築と比べて住む人が変化させやすい性質があるので、あまり縛らず余白を残すよう意識しています。まずは住まい手さんが今後どういう生活をしていきたいのか、この場所にどれくらい暮らしていくのかを見ていくようにしていますね。

家具選びでは「ストーリー」にこだわりたい

自宅での家具選びについて話す桑原さんの写真

―家具やインテリア選びの際にこだわっているポイントはありますか?

桑原:家具や壁はもちろん姿形があるものなので、目に入ってくる情報で心惹かれるかは重要だと思います。一方で、最近は物の価値は必ずしも見た目だけに現れるものではないと考えるようになりました。使っている木材や生産地、加工方法などの「裏に隠れているストーリー」も重要だと考えています。

デザイナー名も重要なインフォメーションのひとつかもしれませんが、その家具がたどってきた道のりに共感できたほうが、愛着が湧くのではないでしょうか。

現代は、単に目から入ってくる情報だけでは判断できない部分が多くあります。自分なりの価値や基準で家具を選べれば、居心地がいい空間づくりにつながると考えています。

これはファッションでも同じことが言えると思います。若いころは流行に左右されがちですが、年齢を重ねると「自分なりの心地よいもの」を見出し、周りに流されず自分で選べるようになりますよね。

ただ、自分の家では実験的にインテリアを選んでしまうこともあります。私の家ではコスト面や見た目の面白さから床面に構造用合板を使用したのですが、塗装が剥がれたり表面が毛羽立ったりして、家族から大ブーイングを受けてしまいました。自分の家づくりこそが一番難しいかもしれません(笑)。

RASIKはサイズや素材の説明が分かりやすい

RASIKのストーヴァの写真

―RASIKのストアを見た印象はいかがでしたか?

桑原ECサイトで家具を買う場合はサイズやバリエーションの違い、使っている素材などの説明が重要だと考えています。RASIKは、そういった点が分かりやすい形で掲載されていると感じました。

また、ECサイト的な要素を持ちつつも、RASIK LIFEの記事を通してインテリアスタイルの提案もされていますよね。かつての雑誌の役割をウェブサイトが担っていく時代の変化を感じます。

面白そうだと思うものをやってみてほしい

学生へのメッセージについて話す桑原さんの写真

―最後に、授業で大切にされていることや学生へのメッセージがあればお願いします。

桑原:最近は、取り組みはじめてすぐに「向き不向き」を気にする人が多いと感じます。情報が増えて、さまざまな職業が魅力的に映る時代だからこその悩みかもしれません。

はじめたばかりの段階で向き不向きはわかりません。向いているかどうかではなく、面白そうだと思うものをやってみるのがいいのではないでしょうか。やってみたいものに向き合うことで、自分らしい仕事に出会えていくと思います

「何をしたらいいかわからない」と相談されることがありますが、私がひとつ言えるのは「やりたくないことは絶対わかる」ということです。やりたくないものを排除して、できそうなことからはじめてみてもいいかもしれません。学び続けていけば、何かしらのきっかけにたどり着けるものです。

そういった点で建築の勉強というのは、すごく応用性が高い勉強だと思っているんです。専門性の高い領域ではありますが、衣食住とも言われるように生活に根ざした領域でもありますから、さまざまな方向で活躍できる技能を習得できると思います。

―素敵なメッセージをありがとうございます。本日はお時間をいただき、ありがとうございました。

相模女子大学 学芸学部 生活デザイン学科 教授 桑原 茂】
一級建築士。1971年生まれ。1997年にコロンビア大学大学院建築都市修景学部を卒業。Greg Lynn Form(米国)、SHoP(米国)などを経て、2005年に桑原茂建築設計事務所を設立。
設計を手がけた「三叉の家(trifurcation)」は住まいの環境デザインアワードでモダンリビング賞を受賞。
2018年に相模女子大学生活デザイン学科の教授に就任。「建築デザインと設計」「コンピューターを使った形態と環境の解析」「デジタルファブリケーション」などを研究。