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家づくりのコツは自分らしさを大事にすること。日本大学藝術学部 若原一貴教授にインタビュー!

家づくりのコツは自分らしさを大事にすること。日本大学藝術学部 若原一貴教授にインタビュー!
2024年8月31日

自分の思い描く理想の暮らしを実現したいと考えた際に、部屋のレイアウトや家具選びなどで悩んでしまう方もいるのではないでしょうか。気になる家具やインテリアを見つけても、値段や種類もさまざまでどれが自分の暮らしに合うかわからない方もいますよね。

今回は、自分らしい家づくりのコツやレイアウト方法などを、一級建築士としても活躍し、独自の視点で数々の住宅を建築設計されている日本大学藝術学部デザイン学科の若原 一貴(わかはら かずき)教授にお話を伺いました。

目次

監修者
『RASIK LIFE』編集長
工藤 智也

2023年にRASIKを運営する株式会社もしもへ入社後、『RASIK LIFE』編集長に就任。自身が持つ不眠症の悩みをきっかけに、寝具について学ぶ。睡眠検定3級。商品の企画・生産・品質管理・販売までを一貫しておこなっている会社の特徴を活かし、実際に商品をチェックしながら記事を作成。フォロワー数24万人超えのRASIK公式インスタグラムでは、商品のレイアウトなども公開中。
公式:インスタグラム

映画を学ぶために入った大学で建築と出会う

若原教授が最初に設計した「あがり屋敷の家」の写真

―本日はよろしくお願いいたします。まずは建築を学び始めたきっかけについて教えてください。

若原 一貴さん(以下、若原):実は、大学に入学したときから建築をやろうと思っていたわけではなく、当時は映画の仕事をするために立体の勉強をしようと思っていました。しかし、いざ美術学科住空間デザインコース(現在はデザイン学科建築デザインコース)に入ってみたら、先生がほとんど建築家だったんです。

また、当時設計事務所でアルバイトをしていた影響もあります。そこで出会った人から、「建築は映画と同じで総合芸術だ」と言われたのが大きなきっかけかもしれません。建築はひとりの力で作るのではなく、さまざまな人が関わって作品を作るところが、映画と同じでとても魅力だと感じました。

―実際に建築が総合芸術だと感じた瞬間はありますか?

若原:最初に勤めた事務所の先生は、生活に関わるものすべてをデザインされていました。建築だけではなくて、テーブルや照明、カーペットの柄も先生がデザインしていたんです。レバーハンドルやドアのつまみとか、そういうのもデザインする事務所だったのでまさに総合芸術だと感じました。

「快適に暮らす」という視点で家にアプローチする

若原教授が設計した「岡本の小住宅」の写真

―若原さんが実際に設計された住宅を拝見すると、小さな家が多いのが印象的です。小さな間取りを広く見せる工夫などはあるのでしょうか。

若原:「小さな家を建てる」という本を出したこともあり、小さい家の仕事は多いですね。そういう切り口で本を出したので、反響があったのかもしれません。だからといって小さい家を推奨しているわけでもなく、広く見せる工夫を意識しているわけでもないんです。

「快適に暮らしていく方法はどういうことなのか?」という点からいつもアプローチしています。

結果的に多くなっていたのが、なるべくがらんとした空間を持つ住宅です。あまり間仕切らないように、立体的なワンルームのような意識で設計していくことが多いです。

外の風景を意識しながら内部のインテリアを考える

若原教授が設計した「小金井の住宅」の写真

―家の設計と合わせてインテリアを考える際、意識されていることはありますか?

若原:インテリアを単体で考えると家の内と外が別れてしまうので、それは避けるようにしています。

たとえば部屋の外に木があれば、その木に向けて窓を作り、その窓をふまえてインテリアを考える。部屋に合った窓を作ると、そこに居場所ができるんです。居場所ができると空間が見えやすくなり、そこに置く家具の大きさも決まっていきます。

インテリアはどうしても建築の内部だけで考えがちですが、住まいは「内と外との関係性」が大事です。外も意識しながら、内も考えるのが重要ですね。

―生活は家のなかだけで完結するものではないということですね。

若原:そうですね。外の風景もそうだし、光とか風をどう取り込むかも大切です。

光は単に部屋を明るくするためではなく、インテリアの要素の一部として考えています。「光による居場所作り」をテーマにしているので、窓とインテリアが密接に関わってくる。だからこそ、外とどうやって関わっていくかがとても重要ですね。

住んでいる人が主役になるように家を設計する

若原教授が設計した「小金井の住宅」の居間の写真

―そのほかに、設計の際にこだわられていることはありますか?

若原:インテリア選びにも通じる話ですが、「建築は生活の背景」なので、住んでいる人にはだんだんと当たり前の一部になっていきます。

住みはじめたころは「すごい、こういうところに住めるんだ。嬉しい」と感じていても、2~3年してくると「え、我が家ですけど何か?」みたいな(笑)。

―慣れるとなりますね(笑)。

若原:なりますよね。ですが私は、家はそういう風に「背景」になったほうがいいと思っています。当たり前に入ってくる朝日や風の変化、朝夜のライティングの変化とかが用意されていて、それがいつの間にか当たり前の存在になるように意識する。建築が主張しすぎないようにしています。

家を設計する際に、あくまでも主役は住んでいる「人」です。その人の生活がメインで、その背景に家具や植栽、建築があります。生活や家具の後ろに建築があるイメージなので、主張の強い素材はメインには使わないようにしています。

若原教授が設計した「北石切の家」の写真

―建築が背景になりづらくなってしまうということですね。

若原:建築が前に出てくると、建築より主張が強い家具を使わなければいけなくなります。そうすると、生活が「前のめり」になってしまう。

その人の生活がアグレッシブなら生活に合わせた強い素材を使わないといけません。でも、私のクライアントは静かに暮らしたい方が多いので、主張しすぎない材料を選んでいます。

床だったら無垢の木。壁だったら漆喰かペンキで仕上げていく。あとは多くの素材を使わない。タイルをちょっと張る程度ですね。

シンプルなレイアウトを作る際は「自分がどうしたいか」を意識してみてほしい

若原教授が設計した「岡本の小住宅」の写真

―シンプルな家や洗練されたレイアウトを作るポイントはありますか?

若原:生活とは、自分がどうしたいのかが大切だと思います。悩んだ際は、自分らしさにインテリアを合わせるのがいいんじゃないでしょうか。

「本を読むのが好き」「パソコンで作業する時間が長い」「絵を描く時間が重要」とか、自分のライフスタイルに素直になる気持ちでインテリアを選ぶ。自分の暮らしを優先して考えた方がいいと思いますね。

考えた結果、人によってはベッドが邪魔になることもあるかもしれません。そうしたら布団を敷くレイアウトにする。インテリア的には見栄えが良くないかもしれないけど、カッコ悪いとは思いません。その人らしい空間ですから。個性が見える暮らしが大事だと思います。

仕事道具と悩み事

仕事道具であるペンケースと若原教授が描いたスケッチ

―若原さんの使用している家具や道具で、こだわりの物を挙げるとしたらなにかありますか?

若原:日常的にスケッチを描くので、いつもペンケースを持ち歩いています。クライアントの家具を調査する際も、寸法のメモと一緒にスケッチするためです。

また、自宅の仕事場では、すごく小さなテーブルを使っています。パソコンが1個置けて、ちょっとスケッチができる程度の大きさです。原稿を書くこともあるので、そのためのスペースは用意しています。

―短い鉛筆がいくつかあるのですが、それを使うのもこだわりですか?

若原:そうですね。スケッチを描いて丸くなるたびにカッターで削っているので、よく使う色ほど短くなっています。カッターのほうがコンパクトに使えるので、鉛筆削りを使わないのもこだわりです。

私の仕事は出張が多いので、飛行機に乗るときにカッターを持ち込めないのが悩みなんです。

いつも朝にペンケースからカッターを抜かなきゃと思うのですが、つい入れたままにして検査で取り上げられてしまい、結局現地でまた買わなきゃいけなくなっています(笑)。

手書きだからこそ表現できるものがある

家具や住宅のスケッチ

―スケッチ作業は、手書きとデジタルでは違いがありますか?

若原:現在の3DシミュレーターやVR技術はとてもよくできていて、完成形が見えやすいと思います。しかし、身体的な部分、肉体の感覚や距離感が見えにくいです。

また素材の話で言えば、無垢の床は足触りが独特です。硬い木は少しヒンヤリし、杉などの柔らかい木は温かかったりします。

そのような身体感覚を表現するのは、デジタルよりもスケッチの方が合っていると思います。硬い木はなんとなく硬いなと思って硬さをイメージして描き、柔らかさを表現したい際はふわっとしたタッチで描いていきます。

その人や生活を空間で表現しようとすると、見た目のデザインよりも素材の質感や時間で変化していく光の入り方とかを意識したいです。そういった点は手書きだからこそイメージしきれる気がします。

手描きした「井の頭の住宅」のスケッチ

―手書きだからこその良さですね。

若原:その人の住まいでのイメージを空間で表現していくには手書きの方がいいと思います。あくまでも最終的な目標は本物の空間を作ることなので、デジタルは通過点でしかないです。通過点であたかも本物ができている必要はないと感じています。

私の仕事は、バーチャルの空間のなかだけで完結するゲームだとかそういう仮想空間を作る仕事ではなくて、現実の住まいを作る仕事です。現実を作る仕事の通過点が現実的である必要はないのです。

RASIKの家具は「いろんな暮らし方を試せる」のがメリット

RASIKのベッドの画像

―RASIKの商品に関するご意見があればお聞きしたいです。

若原:自分の若いころを思い返してみると、そのころは家具にお金をかける余裕がなかったので「はじまりの家具」を買う感覚でした。

私のような感覚で家具選びに悩んでいる方がいれば、RASIKのように手の届きやすい家具でさまざまなスタイルの暮らし方を試してみるのも良いと思います。ローベッドのように実物のイメージが上手く湧かない商品などを、まずは購入して実際に使いながら良し悪しを知れるのはメリットですね。

昔は家具を「一生もの」と捉える考え方が一般的でしたが、家具をひとつの道具として自分たちの生活に合わせて変えるのも良いのではないでしょうか。

たとえば、新婚夫婦はそのうち子どもが生まれて生活が変化する可能性があるので、ベッドも買い替えないといけない。子どもが成長すれば、家具もどんどん変わっていくはずです。

RASIKの連結ベッドは家具を考えるキッカケになると思う

RASIKの連結ベッド「ファミーテ」の画像

若原:RASIKの連結ベッドを見て、「いろんなスタイルの暮らし方を試せそう」と思いました。連結ベッドは、川の字で寝る家族向けの商品だと思うんです。

いま使っているベッドで、子どもが落ちたり間に挟まったりと使い勝手が良くないなと感じていた場合、新しく連結ベッドを買うと生活の仕方が変わると思います。子どもの成長に合わせて連結・分割と使い方を変えられますし。

また、金銭的な余裕が出てきたり、子育てが一段落したりと、30歳か40歳ぐらいの段階で生活を1回見直す機会が誰にでもあると思うんです。そのタイミングまでにいろいろ試しておけば、その経験をもとに次の家具選びができると思います。

自分らしい家具を見つけるには何が必要?

若原教授が撮影した街中の写真

―自分らしさという観点から家具を選ぶには、どんな知識が必要だと思いますか?

若原:自分らしさを考えるのは、現在のように便利な時代ではやや難しいのかもしれませんね。アイデンティティはとても大事なことですが。

自分らしさとは、生まれたときから持っているものだと思います。それが教育や社会のルールによって世間の型にはめられていくと、元々持っていた自分らしさが損なわれることになりかねない。

その様な中で自分らしさを見つけるには、自分の内面と向き合うことや人と比較しないことが大切だと思います。また、感性はトレーニングで鍛えられるので、感性を磨くのも大事だと思います。

ネットやテレビで見るのではなく、外に出てみる。実際に街に出てものを見ることは、感性を磨く際にすごく大事です。ぜひ街に出て、人の生活を見てほしいです。

―人の生活を見るという表現、素敵ですね。

若原:テレワークが増えて家から出ないライフスタイルが主流になり、より生活が見えにくくなっています。外との接点が少なくなってきているからこそ、生活や人の営みを肌で感じることは大事ですね。

建築士は「日常の幸せに立ち会える仕事」

授業の準備をされる若原教授の写真

―最後に、建築業界を目指す学生にメッセージやアドバイスをお願いします。

若原:住宅とか生活に関わるものを作る仕事は、「人生の幸せな瞬間」に関わることが多いです。

ウェディングプランナーみたいに特別な日を演出する仕事もありますが、そういう特別さとは違う、日常の幸せに立ち会えるすごくありがたい仕事だと思います。

「これから結婚します」「子どもができます」という場面に立ち会えるのは本当に幸せなことです。

―家を買うことは「一生モノの買い物」ですしね。

若原:大きな買い物です。これからの時代、家を建てるのもなかなか難しくなっていきます。いろんな意味で難しくなってくるとは思うのですが、身の回りを自分らしく設(しつら)えていくのは大事なこと。私はそういう「文化をつくる仕事をしている」喜びを実感しています。

―素敵なメッセージありがとうございます。本日はお時間をいただきありがとうございました。

【日本大学藝術学部教授 若原一貴】
一級建築士。1971年東京生まれ。1994年に日本大学藝術学部を卒業。2000年に若原アトリエを設立。
著書『小さな家を建てる。 豊かな住まいをつくる60のヒント』(エクスナレッジ)。