コンテンツへスキップ

カート

カートに何も入っていません

家の緑化はコミュニケーションツールになる|日本大学短期大学部建築・生活デザイン学科 山﨑 誠子准教授にインタビュー!

家の緑化はコミュニケーションツールになる|日本大学短期大学部建築・生活デザイン学科 山﨑 誠子准教授にインタビュー!
2025年1月15日

おしゃれな家づくりのために、自宅のベランダや庭に植物を植えたい人もいるのではないでしょうか。インテリアグリーンで部屋に彩りを持たせたい人もいるかもしれません。

今回は、一級建築士および一級造園施工管理技士として建物の外構や植栽を手がけながら、日本大学短期大学部建築・生活デザイン学科の教壇にも立たれている山﨑 誠子(やまざき まさこ)准教授に、住宅の緑化やグリーンインテリアについてのお話を伺いました。

目次

監修者
『RASIK LIFE』編集長
工藤 智也

2023年にRASIKを運営する株式会社もしもへ入社後、『RASIK LIFE』編集長に就任。自身が持つ不眠症の悩みをきっかけに、寝具について学ぶ。睡眠検定3級。商品の企画・生産・品質管理・販売までを一貫しておこなっている会社の特徴を活かし、実際に商品をチェックしながら記事を作成。フォロワー数41万人超えのRASIK公式インスタグラムでは、商品のレイアウトなども公開中。
公式:インスタグラム

日本で一番植物に詳しい一級建築士

山﨑さんがデザインを担当した「ししいわハウス No.3」の写真

―本日はよろしくお願いいたします。まずは、建築と造園を仕事にするきっかけを教えてください。

山﨑 誠子さん(以下、山﨑):私の父が建築設計を仕事にしていたことや、理系科目が好きだったこともあり、大学は建築学科へ進みました。しかし、大学卒業当時はまだ建築技術者の女性登用が少なく、就職にも苦労する時代でした。

そこで、まずは幼少期から好きだった植物を活かせる造園の仕事を目指すことにしたのが、今の仕事をするきっかけです。大学の先生からのアドバイスを受け東京農業大学で樹木に関する知識を深めた後、造園設計事務所で10年近く働き、独立して事務所を立ち上げました。

大学時代に都市計画事務所でアルバイトをしていた経験も活かし、現在は「まちづくり」「建築設計」「植物」と3足の草鞋を履いています。おそらく日本の一級建築士のなかで、一番植物の名前を知っているのが私だと思います。

建築業界の人は植物に興味を持ちながら、うまくデザインに取り込めずに悩む人もいます。一方で造園業界の人は、建築にあまり興味がありません。私はその隙間を埋め、建築と緑をつなげることを仕事にしています

また、28歳のときに専門学校の講師を務めて以降、教壇にも立ち続けています。建築業界を目指す人たちに緑化設計を教えることも生業のひとつです。

無理のない範囲でガーデニングを楽しむ

芝生による緑化を行っている住宅の写真

―住宅の造園や外構ではどのような仕事が増えていますか?

山﨑:近所からの目隠しを目的とした緑化が増えています。門回りにワンポイントのゲートツリーを作る程度で、本格的な庭づくりの仕事は少なくなってきている印象です。

ガーデニングブームが落ち着いた理由のひとつに、手入れの大変さがあると考えています。植物を育てることは、ペットを飼うことと一緒です。植物につく虫を駆除する必要があったり、雑草を抜く手間もかかったりします。

植物は生き物なので、こまめに世話をしないと枯れてしまいます。無理をして綺麗な庭を維持するよりも、自分が楽しめる植物を1、2種類選んで、目につくところに植える程度の規模感がよいのではないでしょうか

また、大きな庭を持つ人や手入れの手間を抑えたい人には、芝生による緑化をおすすめしています。自動芝刈り機は30年前からありますが、ここ5年で急速に技術が発達し「芝生ルンバ」と呼ばれる完全自動芝刈り機も出てきました。昔は大きな家で芝生を作るのは手入れが大変だと話していましたが、今は剪定の手間がない芝生のほうが手入れがしやすいと話しています。

はじめての緑化におすすめの植物

山﨑さんが外構を担当した「谷中テラス」の写真

―はじめて緑化に取り組む人にアドバイスをお願いします。

山﨑:木を植えようとすると1株1000円以上しますし、大きな木は職人に手入れを依頼しなければなりません。景観を整える目的で木を植えるのではなく、自分が好きな植物を選んで育てる過程も楽しむとよいと思います

日当たりがいい庭なら、レモンのように実ができる植物がおすすめです。レモンには「酸っぱいので鳥がつつかない」というメリットもありますね。

また、緑地を作る場所選びも大切です。よく屋上の緑化に挑戦する人がいますが、屋上は意識しないと足を運ばない場所です。水やりの間隔が空きやすく、枯れてしまう可能性が高い場所といえるでしょう。玄関周りのように毎日様子を見られる場所の方がおすすめです。

日当たりの悪い庭で緑化をするコツ

「牧野記念庭園」で樹木の解説をする山﨑さんの写真

―日当たりのよくない庭を緑化する際におすすめの植物はありますか?

山﨑:樹木は「陽樹」「中陽樹」「陰樹」の3種類に分かれています。陽樹は日光が好きな木で、中陽樹は朝日を好む一方で西日が苦手な木、陰樹は日陰でも育つ木や、日陰が好きな木を指します。

実は、日本の植物はほとんどが中陽樹か陰樹に分類されます。モミジをはじめとした樹木も、半日陰程度の日照を好みます。つまり、日本の植物を育てる場合は半日陰くらいの日当たりが最も適しているんです。一日中の日当たりが必要なのは、芝生とヤシのようなトロピカルな植物だけです。

また、日当たりの悪い庭に植える植物を選ぶ際は、公園や日本庭園を見本にするのがおすすめです。古くからある日本庭園が美しい景観を維持できている理由のひとつが、陰樹や手入れが楽な植物を取り入れているからです。少し暗いエリアにどのような植物が使われているかを見ると、庭作りの参考になると思います。最近の庭園には植物の名前も書いてありますしね。

庭作りからコミュニケーションが生まれる

山﨑さんと住宅の緑化に取り組む学生の写真

―造園や外構に関わるなかで印象に残っているエピソードはありますか?

山﨑:映画監督である行定勲さんの家の外構を担当した後、行定さんが雑誌のインタビューで「家に庭を作ったことで、母とのコミュニケーションが増えた」と話されていたんです。庭を充実させることで家に季節が取り込まれ、自然の移ろいを感じながら親と話せるようになったという話を読んで、庭のある家作りを通して「ストーリー」が生まれたことに嬉しさを覚えましたね。

日本の庭や緑地空間には四季という「特権」があります。それを意識しはじめたのは、新潟県長岡市の駅前広場の外構を担当したことがきっかけでした。

前職の会社で長岡駅前の仕事があって、設計担当者が寒くても育ち、緑が維持できるヒマラヤスギを植えたんですね。たまたま長岡で別の仕事を私がしたときに、長岡市の人からは「春になって芽が出てくる様子を楽しみたいから、常緑の針葉樹でないほうが嬉しい」と言われたんです。春を待ち遠しく思う北国の人々から、造園とは景観作りだけではないこと、季節感や時間の移ろいを考える大切さを学びました。

また、緑や花はコミュニケーションツールとしての役割も持っていると感じます。緑化に力を入れている美容室が多いことに着目した学生が「何故花を置いているのか?」とヒアリング調査をしたところ、多くのサロンが「お客様とのコミュニケーションのため」と回答されていました。天気の話と植物の話は、どんな人でも会話がしやすい話題ですからね。

東日本大震災で被災し仮設住宅に籠りっきりになったおじいさんが、植木鉢に花を植えるイベントに参加してくれたという話を聞きました。花や緑は話さなくてもいいし、花苗を植えるにはそんなに技術が必要なことでもない、だけどきれいに出来上がる、面倒な感じがしない。緑によるコミュニケーションには、単純な会話だけでなく、社会とのつながりを作る機会も含まれているのではないでしょうか

インテリアグリーンは置き場所に注意する

著書を見ながらインテリアグリーンについて話す山﨑さんの写真

―インテリアに植物を取り入れる際に注意すべきことはありますか?

山﨑:インテリアグリーンは人工物ではなく生き物です。人間が嫌だと思うことは植物も嫌だと感じます。フェイクグリーンとはまったく違うものですから、光や室温、風に注意しなければいけません。

たとえば、クーラーの風が直接当たる場所や、冬場は10度以下になるような場所に植物を置くと枯れる可能性が高くなります。

また、ガラスの近くに設置するのも避けるべきでしょう。Low-Eガラスのような断熱性に優れたガラスを使っていない場合、日中の日当たりがよくても夜は気温が低くなります。窓際に植物を置く際は、とくに注意が必要です。

RASIKのストアにデザインのセンスを感じた

RASIKのダイニングセットと観葉植物を配置したダイニングの写真

―RASIKのストアを見た印象はいかがでしたか?

山﨑:ストアがおしゃれでセンスがあると感じました。素敵な写真が多いですね。

サイトのバナーや写真のセンスはとても大切な要素だと考えています。私もそうなのですが、デザインにこだわって商品を選ぶ際は、接客するスタッフの格好を見ているんです。設計事務所のスタッフにも、身に着けるカバンや靴などには注意してほしいと伝えています。

機能性だけでなく、自分のライフスタイルに合わせた家具を選びたい人たちは、ストアのデザインを見ながら購入先を検討しているのではないでしょうか。そういった観点でも、RASIKのストアデザインはとても素敵だと思います。

植物を選ぶ仕事は人間にしかできない

野山で樹木調査を行う山﨑さんの写真

―最後に、学生へのメッセージがあればお願いします。

山﨑:昨今AI技術が進歩していますが、造園や緑化は人間が担う最後の仕事のひとつかもしれないと考えています。

植物はひとつたりとも同じものがありません。種類は一緒でも同じ形のものはないんです。そのなかから庭に合ったものを選ぶ行為は、現場にいる人間にしかできないと考えています。「生き物と関わりながらのものづくり」は、AIが介入できない世界なのではないでしょうか

また、建築も造園もSDGsに関わりが深い業界のひとつです。興味がある人はぜひ勉強してみてください。

―素敵なメッセージをありがとうございます。本日はお時間をいただき、ありがとうございました。

【日本大学短期大学部 建築・生活デザイン学科 准教授 山﨑 誠子】
一級建築士、一級造園施工管理技士。有限会社ジーエーヤマザキ取締役。建築設計事務所と共同しての外構空間設計や、大規模庭園や植物園などの植栽プランの計画もおこなう。
主な業績に「横須賀美術館(第49回BCS賞受賞)」「​大宮区役所・大宮図書館」「​練馬区立牧野記念庭園」「京王フローラルガーデン「アンジェ」」など。
主な著書に「樹木別に配植プランがわかる 植栽大図鑑(エクスナレッジ社)」「花のコンテナ コツのコツ(小学館)」など。
2013年4月より日本大学短期大学部建築・生活デザイン学科准教授。担当科目は「ランドスケープデザイン」「建築・生活デザインの基礎」。