夫婦だからこそできる住宅建築とは｜京都建築専門学校 建築科 中田 哲先生に夫婦インタビュー！
2025年1月29日
夫婦で暮らしていると、家具やインテリアに対してそれぞれが異なる要望を抱くかもしれません。また、模様替えの際にインテリアの理想がすれ違うケースもあるでしょう。
今回は、建築設計事務所を運営しながら京都建築専門学校の建築科で講師も務められている中田 哲（なかた さとし）先生と、同事務所を一緒に運営している奥様の貴子（たかこ）さんのふたりにお話を伺いました。
2023年にRASIKを運営する株式会社もしもへ入社後、『RASIK LIFE』編集長に就任。自身が持つ不眠症の悩みをきっかけに、寝具について学ぶ。睡眠検定3級。商品の企画・生産・品質管理・販売までを一貫しておこなっている会社の特徴を活かし、実際に商品をチェックしながら記事を作成。フォロワー数41万人超えのRASIK公式インスタグラムでは、商品のレイアウトなども公開中。
公式：インスタグラム
異なるアプローチで住宅設計にたどり着いたふたり
―本日はよろしくお願いいたします。まずは、おふたりが住宅建築に興味を持たれたきっかけを教えてください。
中田 哲さん（以下、哲）：私は建築を学ぶために地元の京都を離れて北海道の大学へ進学し、2年生の学科決めで環境工学に専攻を変えました。ですが、どうしても建築の設計を仕事にしたいと思うようになりました。一から建築を勉強するために、大学卒業後に京都建築専門学校に入り直しました。
京都建築専門学校では、普通の座学以外にも多様な授業がありました。京都にある社寺などの伝統建築を先生の解説付きで見学する授業や、実際にノミやノコギリを使って仕口や継手を作る木工の授業などです。20年ほど前から町家の改修を授業に取り入れており、私も学生時代に町家の一部解体や、土壁の小舞編みや土壁塗りも体験しました。解体作業で出てくるアルミサッシやコンクリートブロックは廃棄するのも動かすのも一苦労でしたが、土壁や木材などは改修時に再利用できることを知りました。昔からある建物は良く出来ていますね。その経験が木造の住宅建築に興味を持つきっかけになったと思います。
専門学校卒業後は、設計事務所に就職し、役場や社務所等の設計に関わりました。設計の仕事だけではなく、社長の鞄持ちとしてよく神社やお寺の建築を見て回りました。通常なら入れないような場所まで見学させて頂けたのは、今考えるととても貴重な体験でしたね。しかし、規模の大きな仕事が多く、自分が考えている建築とのスケールの違いを感じてしまったんです。その経験があったので、自分が住んだ家や改修に関わった町家のような住宅設計を仕事にすることに決めました。
中田 貴子さん（以下、貴子）：私は大学でインテリアを勉強し、卒業後は雑貨や北欧家具の販売の仕事をしていました。その後、もっと専門的な仕事をしたいと考え、転職してキッチンのショールームや工務店での仕事を経験し、結婚してからは夫と一緒に設計を手がけるようになりました。いろいろと転職をしましたが、暮らしに纏わることが好きなんです。
夫が大きな建物から住宅設計へ、私は暮らしや生活から住宅設計に辿りつきました。目指す建築は同じでも、夫婦で少し視点が違うのが良いと思っています。
ふたりで住宅を設計する利点
―夫婦で建築設計の仕事をする最大の魅力はどこですか？
貴子：住宅設計を依頼されるクライアント夫婦も、旦那さんと奥さんでは家に対する感覚や視線が違っていることもありますが、私たちも夫婦で対応することで、男女どちらの意見にも理解を示すことができていますね。
哲：結果的に、クライアント夫婦が気軽に相談できるタイミングが増えていると思います。妻の貴子や奥さんに相談しにくいような要望でも、旦那さんがこっそり私に話してくれることもありますね。
打ち合わせや現場管理も基本的にふたりで行くようにしています。ひとりだと配慮が行き届かないところをフォローできるのも利点のひとつですね。片方が会話をしながら、もう片方が会話を書き留め、相手に写真を見せるといったこともできますし、打合せや意見交換も活発になるように感じています。
大きな中庭でコミュニケーションを活性化させた「下鴨の共庭住宅」
―「下鴨の共庭住宅」はどのように設計されたのでしょうか。
哲：「下鴨の共庭住宅」は、もともとは「老朽化した3軒の賃貸住宅を建て替えてほしい」という依頼でした。しかし、正方形に近い本敷地を3分割すると南北に細長い形状となり、ネコの額ほどの小さな庭しか残らないんです。それだけでなく各戸の間には使い道のない無駄な空間が発生します。そこで、戸建て3棟ではなく共同住宅とすることを提案し、1敷地に3住戸が中庭を囲い、大屋根がロの字型に繋がるプランとしました。
また、賃貸住宅は庭の管理も課題点のひとつです。設計時に庭をしっかり造っても、住人によっては手入れしきれないケースもあります。そういった点をオーナーさんも気にされていたので、「共庭住宅」という形で敷地の中央に庭を配置したんです。
敷地を3つに分けるとそのぶん庭も小さくなりますが、共同住宅の中庭であれば大きな庭を作れます。十分なスペースを確保できたので、庭のシンボルとなる木も植えることができました。また、玄関の位置を中庭を通って出掛ける間取りにすることで、居住者同士の交流が増えることを期待しています。
貴子：賃貸住宅は、不動産屋さんの検索サイト等で交通の便や床面積などの画一的な条件で比較されることが多いのですが、この「共庭住宅」では建物のビジョンに共感する人に入居してもらえる賃貸住宅を目指していました。完成して数年経ちますが、私達が想像していたように、入居されている3世帯の子どもたちが仲良く一緒に中庭で遊んでくれているそうです。家を建てた当初は生まれたばかりだったお子さんが、最近お会いしたら成長して庭を走り回っておられて、本当に嬉しい気持ちになりましたね。
京都の町並みを保全するための「改修」という選択肢
―哲さんが好きな言葉として挙げている「建築は永久に社会の器」には、どのような意味が込められているのでしょうか。
哲：「建築は永久に社会の器である」は、ウィリアム・メレル・ヴォーリズという建築家の言葉なんです。日本では個人の敷地は所有者が好きなように出来る認識がありますが、住宅建築も本当はインフラのひとつで、社会にとって大切な要素だと私は考えています。クライアントが建物で何をしたいかはもちろん大切なことですが、周囲の環境をふまえて建物をつくることも大切ではないでしょうか。ひとつの建物が完成して街並みがガラリと変わることもありますから。
たとえば、京都市内の町家に住む人からの改修相談でも、京都らしい町並み保全のため、外観はあまり意匠を変更せず改修していくことが多いです。家の骨組みを確認し、しっかりとした柱や梁があれば、それを活用した改修を行っていきます。新築工事よりも改修のほうが工事費を抑えられることもあり、家具やカーテン等の買い替えにかけるお金の余裕も生まれやすいですね。
ここ数年間で建築工事費が上昇していることもあり、これからも改修は増えていくでしょうね。先代が残した家の骨組みを活かして暮らしを改修していく取り組みは、まさに「建築が永久に社会の器である」という考え方に沿ったものだと思います。
RASIKのコーディネートは暮らしを考えるきっかけになる
―RASIKの商品を見た印象はいかがでしたか？
哲：家具だけでなく雑貨やカーテンも買えるので、生活全体を支えてくれる印象を受けました。幅広い種類の家具を同じストアで購入できれば、家具を追加で買うときに手間なく楽しくショッピングができますよね。家具を買いはじめる人にとっても嬉しいことだと思います。
貴子：住宅の設計をするときも、クライアントの要望をヒアリングしながらその人の暮らしに寄り添える建物を設計していきますが、家具周りのコーディネートまで意識された商品ページの写真を見て、RASIKのストアからも同じ思いを感じました。商品のバリエーション数が多くお手頃価格で嬉しいですね。個人的にはペーパーコードの椅子が欲しいです。
哲： 本来であれば幼少期にいい建築や住宅を見る機会があればいいのですが、最近は他人の家を訪れる機会も少なくなっています。若い人にはRASIKのような部屋の雰囲気まで意識したコーディネート写真をきっかけに、インテリアや暮らしに触れていってほしいですね。
建築という仕事は「人生の振れ幅」が増すほど面白くなる
―おふたりが思う建築家という仕事の魅力を教えてください。
哲：私は、長く仕事ができるのが建築家という仕事の魅力だと感じています。若さを活かした発想で作る住宅と、ある程度年齢を重ねてさまざまな経験をして作る住宅には違ったよさがあります。30年後も設計の仕事ができているとしたら、どのような住宅を作れるだろうかと考えると、少しワクワクしますね。
貴子：私も同じことを考えています（笑）。大学院の恩師の建築家からも「設計は70歳になって、もっと面白くなってくるんだよ」と言われました。今も充分素敵な仕事だと思って取り組んでいますが、まだまだ面白くなるなんて愉しみですね。
哲：同じように先輩建築家から聞いた話ですが「住宅は帰る場所」だとよく言われていました。公共建築や商業建築は、買い物やコンサート等の目的があるときに建物へ足を運ぶ「行く場所」です。それに対して、住宅というのは元気なときも風邪をひいているときも嬉しいときも沈んでいるときも絶対に「帰る場所」です。人生は山あり谷ありですが、その気持ちの振れ幅を許容できるような、少しおおらかな建築が理想という意味ですね。
実は、最初にこの話を聞いたときはあまり内容を理解できていませんでした。しかし、私自身がある程度年齢を重ねて、結婚や病気、ペットとの暮らしなどを経験し「人生の振れ幅」が増えてきて、ようやく言葉の意味を実感できるようになりました。
「暮らしの経験」を重ねて設計に活かす
―最後に、学生へのメッセージがあればお願いします。
哲：専門学校では建築の専門知識を1年生から勉強しますが、細かいことは措いておいて、学生が設計を楽しめるか、ワクワクしてくれるかを重要視しながら授業をしています。
また、設計を楽しむために、まず手描きでスケッチを描いてほしいと伝えています。頭で考えるだけでなく「自分で体験したもの」こそが自分の手を動かすと考えています。体験をもとにした発想がスッと出てくるようになると、設計がより楽しくなるんです。
貴子：暮らしや建築についての体験を積み重ねていってほしいと思います。
専門家でなくても、誰しも暮らしの経験は日々積み重なっていきますが、設計を志す方には、自分自身だけではなく他人の暮らしを考える機会をもって欲しいですね。住宅や建築を訪ねたり、家具のショールームに行く機会を大切にしてください。そういった空間を体感することの積み重ねからいい設計が生まれると思っています。経験に勝るものはないですね。
―素敵なメッセージをありがとうございます。本日はお時間をいただき、ありがとうございました。
【京都建築専門学校 建築科 中田 哲先生と奥様の中田 貴子さん】
夫婦で「中田哲建築設計事務所 + 好日舎」を運営。
哲さんは中田哲建築設計事務所代表。一級建築士で合気道初段、京都建築専門学校 建築科講師も務める。担当科目は「設計製図」「卒業設計（設計）」など。聴竹居倶楽部所属。
貴子さんは好日舎代表。二級建築士、インテリアコーディネーター。また、京都市文化財マネージャー（建造物）、京町家専門相談員、聴竹居倶楽部所属。
京都府長岡京市を拠点に、夫婦で個人住宅、共同住宅、店舗、町家再生、福祉施設を設計。主な作品に「旧太田喜二郎邸（2022年日本イコモス奨励賞）」「下鴨の共庭住宅（2021年グッドデザイン賞、2021年京都デザイン賞 審査員賞、第10回 京都建築賞 奨励賞を受賞）」「西賀茂の家（2017年グッドデザイン賞）」など。
下鴨共庭住宅 動画リンク
https://www.youtube.com/watch?v=a3QYjnGN8Xs
